Devil's Own

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「ウルトラマンレオ」考―その不条理と孤独のドラマツルギー

久々ウルトラネタ。
実相寺監督との関係は薄いが、先週の「ウルトラマンメビウス」で、32年振りにウルトラマンレオが当時の主役・真夏竜氏込みで客演した模様。やっぱり観とくべきだった。
昭和のシリーズ設定を活かしているか否かで賛否両論の最新作「メビウス」ではあるが、今回の客演に関しては、信者、アンチ双方に概ね好評を博している様子だ。
僕も件の34話を先ほどYouTubeで視聴したけれど、素直にカッコよいと思った。やはり本人のゲスト出演はでかい。
初戦には惨敗するが、厳しい特訓によって新技を編み出しリベンジを果たすという内容も初期「レオ」のドラマ作りを素直に踏襲したものとなっており随所にオリジナルへのオマージュが垣間見られなかなか見応えがあった。
シリーズ全体としての「メビウス」のテーマは「友情」らしいのだが、どうも馴れ合いで予定調和な雰囲気が鼻に付くところもあって、それは前回紹介した「怪獣使いの遺産」でも指摘できることなのだが、今回はシリーズ随一の異色作でもある「レオ」のストイックな結果主義とそこから来る悲壮感や孤独感を上手い具合に絡めていて、そのあたりの弱点を克服していたように思う。
今月のDVD全巻リリースのタイミングに合わせるというコマーシャルな狙いも勿論あるのだろうが、大方のファンがご満悦といったところだろう。最新式のCGで再現されたレオキックの素晴らしさは鳥肌モノだった。

とまぁ手放しで感涙にむせび泣いている僕ではあるが、「レオ」という作品自体が今日のような正当な評価を得るに至るまでは、かなりの紆余曲折があったようだ。恐らくDVDの発売により視聴環境が整ったことは大きい。それまで本作は視聴率的には低下の一途を辿ったシリーズ最大の不人気作というレッテルを貼られ、大規模なレンタルショップでもない限り店頭にビデオソフトを置かないという不遇の作品だったのだ。(次作の「80」もなかなか酷い扱いではあるが)
今回デジタルリマスタリングにおける高画質・高音質で視聴することができて、僕自身もレオの魅力について気づかされた部分がいくつかある。
徹底した結果主義によるストイックなヒーロー像の模索、生きる上での不条理と孤独を描写した苛烈極まりないドラマツルギー、そして当時の社会の位相を色濃く反映した独特の暗さが一体となり、暗澹たるムードを全編に醸しだしている。
視聴率低下の前に余儀なくされた度重なる路線変更は、本作への辛辣な評価に繋る一方で、
作り手の優れたエポックメイキングが閃く要因ともなった。
特にラスト1クール分に当たる「恐怖の円盤生物編」は悲愴で過酷な内容ゆえに、当初の「レオ」のテーマでもあった「孤独なヒーロー像」を体現する結果となった。孤独と不条理に立ち向かう「人間」の物語として昇華した粒揃いの傑作群であり、現在でも十分鑑賞に堪えうる内容となっている。

なにしろこのシリーズの皮切りとなる第40話は、地球侵略兵器第1号である円盤生物シルバーブルーメの襲撃によって番組レギュラーとして出演していた登場人物がほぼ全員死滅するという衝撃的な幕開けとなっている。シリーズの前後関係を無視した暴力的ともいえるこのような展開は、作り手としても勿論苦肉の策であったのだろうが、結果としてこの悲劇的なイベント編はシリーズ最高傑作のひとつとして、語り草となる。
以後、全く子ども番組として、いや既成の物語としても、完全に常軌を逸した苛烈でモラルハザード*1なエピソードが続く。劇中での登場人物は、それぞれの傷を背負ってそれでもひたむきに生きようとするが、その優しさや愛情は決して毎回のように報われることなく、むしろ徹底的に踏みにじられてしまうことの方が多いのである。故にこの時期のエピソードはどれもショッキングではあるが、非常に生々しく見るものの精神に迫ってくる。
曖昧で脆弱なファンタジーとしてではなく、過酷で不可解なリアリティーを描くことが果たして子ども番組として正しいのかは微妙なところではあるが、この1クール分12話は、それぞれ重厚なテーマと不可解な恐怖を湛えた非常に優れた作品群だと再認識した次第。
DVD ウルトラマンレオ Vol.13DVD ウルトラマンレオ Vol.12DVD ウルトラマンレオ Vol.11

*1:はてなキーワードによるとモラルハザード=倫理の崩壊とするのは誤記らしいがここではそう理解していただきたい