Devil's Own

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愛すべき悪の権化カリガリ博士―「シルバー假面」レヴュー

書くのすっかり忘れていたが先日、故・実相寺昭雄監督の遺作「シルバー假面」をユーロスペースにて見てきた。

シルバー假面」は、第2次怪獣ブームの最盛期1971年に放映された特撮ドラマ「シルバー仮面」のリメイクである。オリジナルの第1話・第2話は初期ウルトラシリーズ怪奇大作戦で数々の傑作を産み落としてきた脚本・佐々木守×監督・実相寺昭雄の最強タッグによって制作され、隠れた傑作としてカルト的人気ほ誇っているのだが、残念ながら僕自身は未見だ。ただこの「シルバー假面」自体はオリジナルの設定やストーリーを大幅に改変した完全新作として作られているので、予備知識なしでも十分に楽しむことが出来た。
1920年の帝都東京を舞台に若き日の江戸川乱歩森鷗外カリガリ博士アドルフ・ヒトラーまで登場する大ネタ満載の伝奇ドラマだ。やはり実相寺監督は日本のレトロな雰囲気を幻想的に撮る能力に長けていたと実感するにつけ、本当に素晴らしい監督がこの世から去ってしまったんだという喪失感をかみ締める。
映画自体は3部構成になっており第1話から第3話を実相寺昭雄、北浦嗣巳、服部光則がそれぞれ監督した連作オムニバス形式。本編部分に関しては光と影の視覚効果による実相寺流映像美が炸裂する第1話が明らかに異彩を放っているが、戦闘シーンはそれぞれの監督の映像嗜好が表れていてこれはこれでよかったと思う。実相寺と服部は舞台的な演出、北浦は平成特撮マナーで手堅く撮るという感じ。平成特撮世代の僕としては安心してみることが出来るがどう見ても浮いていた。服部氏はカメラワークも結構好みだったので、他にどんなの撮っているのかと気になって調べてみたが、どうやらポルノで仕事している人のよう。ただ実相寺監督作品である「D坂の殺人事件」や「姑獲鳥の夏」で監督補佐をしているので実相寺監督にはかなりゆかりのある人物であることは伺える。3話でのシルエットを用いたシルバー假面とマリアの戦闘シーンが実相寺監督へのオマージュのように感じたのも頷ける。
しかしこの映画の最大の魅力は先にも触れた史実とフィクションを自由に行き来する奇想天外な物語だろう。シルバー假面=日独ハーフの美女ザビーネが文豪森鷗外の娘であるという設定も、「舞姫」に裏打ちされて面白味を増すことに成功しているし、ハーメルンの笛吹き男などに代表されるドイツ伝承譚を引用しつつ「カリガリ博士」を一種の屋号と捉え、人間が立ち向かうべき根源悪の象徴とする誇大妄想的で強引なストーリーもいい。劇中のカリガリ博士はドイツの古典的同名映画に登場するマッドサイエンティストロールモデルに、江戸川乱歩に代表される日本の古典的怪奇小説のエッセンスを付加したようなキャラクターだ。手下である眠り男・チェザーレが道化師に扮していることもそういった印象を強めているのだが、西洋の代表的悪役キャラクターへの日本的なアプローチが、石橋蓮司の怪演も手伝って全く新しいカリガリ博士像を生み出すことに成功している。独特の魅力を得ることに成功した。
カリガリ博士」はドイツ表現主義映画の金字塔でもあり、サイコサスペンスの源泉でもあり、どちらにせよ僕はもう何度も見まくっている。

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日本の怪奇小説に登場する狡猾で冷酷な犯罪者のキャラクター的原点が彼にあると言ってもいい。だから実相寺昭雄が描くカリガリ博士を見ることが出来たのはある意味とても幸せなことだったと思う。恐らくこれが実相寺が描きたかった「悪」の狂気、猥雑さ、滑稽さの集大成であり、ここで描かれる悪質であり、どうしようもなく身近に感じるカリガリこそが人間の罪深くも愛おしい欲望の具現化ではないだろうか。。考えすぎだな。

シルバー假面」予告編