さようなら、金田一耕助―なぜ「犬神家」は帰ってきたのか?
昨日レイトで市川崑によるセルフリメイク「犬神家の一族」を見に行ってきた。
いわずと知れた国内ミステリー映画の最高峰であり、その後の名探偵金田一耕助のイメージを決定付けた傑作を再び監督市川崑、主演石坂浩二で撮りなおすというというちょっと謎の試み。だったら「病院坂の首縊りの家」以来の続編という形で「悪魔が来りて笛を吹く」なり「本陣殺人事件」なりを撮って欲しかった気もする。何よりオリジンである「犬神家の一族」が今もって傑出する出来で、とてもリメイクを要するものだとは思えないのだが。
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印象としては同じセットで違う役者が芝居をしている完全なリメイクといったところで、台詞や動作に細々とした改変があり、それがオリジナルを何度も見ている人間からするとちょっとくどくて閉口するかもしれない。俳優は同一人物*1以外はどれも旧ヴァージョンでの役者の方が狂気を孕んでいた気がする。どの役柄にも取り憑いたような薄気味の悪さがあったからなぁ。ただ市川崑の金田一シリーズは毎回ほぼ同じ俳優陣を使っているから、後になって思い返すと作品群が混同してしまい、結果として個々の役柄の魅力がスポイルされてしまうという欠点がある。そういう意味では今回の俳優陣での「犬神家」は新鮮な気もするが、やはりどの役者もオリジナルの方がベターだという印象に変わりはない。とは言え、先述した演出過多な台詞回しや動作が端的に示すように、リメイク版の方がテレビ向けな芝居をしているだけの話で作品の善し悪しというよりは好みの問題だろう。僕個人としては、松嶋菜々子は島田陽子と比べると気が強そうに見えて違和感があるし、深田恭子は坂口良子が持っている「ちゃきちゃき感」が足りない*2。奥菜恵はあの汚れ役を体当たりで演じていた分健闘していた気がするがネームヴァリューと美貌だけでオリジナルに勝った気がしなくもない。
中盤以降は忠実なオリジナル再現志向が目立ち始め、カメラワークやアングルにの若干のマイナーチェンジがあるものの、ほぼコピーと言っていい。先ほども挙げたような点においてオリジナルに軍配が挙がるが、僅差でしかないだろう。クライマックスの犯人との対峙のカット割に関して言えばリメイクの方がいいと思う瞬間もあるし、そこは好みの問題になってくる。第一、ここまで来ると、市川崑×石坂浩二の金田一映画の新作を見ることができた感慨が大きすぎて正直オリジナルとの比較論などどうでもよくなってしまうというのが本音だ。安心してみていると、事件が終息した後のエピローグでは大幅な変更がある。市川崑が今更この映画をリメイクするモチベーションを強いて見出すとするならば、恐らくこのラストカットではないだろうか。僕としては感傷的になり過ぎないオリジナルのラストの方が好きだが、この映画のラストカットを以って初めて石坂浩二版金田一シリーズがひとつの帰結を見たという印象を見るものに与えて感動的だ。市川崑×石坂浩二の金田一シリーズの5作はどれも三時間弱の大作ばかりにもだが、平均すると半年に一回リリースされた計算になる。これは本作「犬神家」のヒットに乗じた角川事務所側のコマーシャルな思惑がかなりの部分で発動しているようなのだが、商業的にも落ち目の頃に封切られたシリーズ最終作「病院坂の首縊りの家」は一般的には駄作と言われていることもあって、市川崑本人としては金田一シリーズに納得の行く決着ができていないといったオブセッションがあったのではないだろうか。だから自らの手で金田一シリーズの原点的傑作である「犬神家の一族」をリメイクし、一応の区切りをつけることも意味があったと思う。この映画を見て僕はそんなことを思った。
そういえば最近旧ヴァージョンの方はコレクターズエディションなんかも出ちゃったりして、萎えつつも、僕が保存しているのはDVDのコピーだし、特典の充実ぶりによっては買ってもいいかなと思ったり。だったら2作目以降のDVDBOXも絶対欲しいなと思ったり。個人的にはこのシリーズでは2作目の「悪魔の手毬唄」が一番好きだから。
金田一耕助の事件匣 市川崑×石坂浩二 劇場版・金田一耕助シリーズ DVD-BOX
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