Devil's Own

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実相寺昭雄にまつわる―ウルトラマンティガ「夢」と「屋根裏の散歩者」

 レポートもシナリオもイマイチ進まず。というかここ数日コーヒーのみに行く以外で全く外に出ていない事実はどうなのよ。
 朝はTBSチャンネルでの「ウルトラマンティガ」再放送を見るのが最近の日課なのだが、今日は実相寺昭雄監督作の第40話「夢」が放映されていた。

ウルトラマンティガ Vol.10 [DVD]

ウルトラマンティガ Vol.10 [DVD]

 この平成ウルトラの金字塔が放映されてからもう10年になるんだなと思うとちょっと感慨深いものがある。そうだよな、僕小学生だったわけだし。
 「ティガ」は今でこそ傑作扱いされているが、圧倒的に面白くなりだしたのは実相寺が参加しだしたこの時期くらいからだと思う。登場人物個々のエピソード総括を含めて、最終的にダイゴとレナの恋愛関係に収束させていくための演出が丁寧だったし、故にクライマックスの正体バレが名シーンたりえているのだと思う。基本的に特撮ドラマは放映期間が1年と長いので、こういう形で活かして欲しいよね。ただ、「ティガ」の成功に関しては諸刃の剣で、以降平成特撮では必要以上にシリーズ構成に拘った大河ドラマ的な志向が強くなっていって特撮番組本来のダイナミズムを失っていったのも事実。まぁ最近は一話完結フォーマットの原点回帰を果たした「特捜戦隊デカレンジャー」や「ウルトラマンマックス」などが支持される傾向にはあるようだが。
 「夢」に関してははリアルタイムで見たときは、あまりに抽象的で全く解らなかったのだが、今見ると晩年の実相寺昭雄らしい秀逸な短編として楽しめる。オカマのスピリチュアルカウンセラー役の嶋田久作と毎夜毎夜怪獣に出くわす浅野忠信がよい。少なくとも同監督の映画「姑獲鳥の夏」よりは断然楽しめる。

 実相寺昭雄と言えば、最近「屋根裏の散歩者」を見直したのだが、訃報を聞いた後でも特にセンチメンタルな気持ちになるでもなく普通に楽しんでしまった。(まぁ内容が内容だし)

DVDで見たのは初めてだったのだが、実相寺昭雄とプロデューサーの一瀬隆重による音声コメンタリーも付いていて面白かった。エロスの描写を巡る映倫との悶着のエピソードが豊富で、「コンドームを映すなんて失礼だ」や「腰は2回以上振っちゃいけない」などの的の外れた映倫の忠告に爆笑。それから嶋田久作演じる明智小五郎が素晴らしい。歴代の明智の中でも群を抜いて退廃的だ。しかしこの作品にしても、DVD化が決まった「D坂の殺人事件」にしても、「乱歩地獄」収録の「鏡地獄」にしても、つくづく実相寺昭雄は乱歩作品の持つ淫靡でデカダンなムードをフィルムに映し出せる数少ない映像作家だったと思う。本当に残念と言うほかない。
 このDVDを借りるついでにロマンポルノのヴァージョンの「屋根裏の散歩者」も見つけた。監督は田中登。この監督にちょっと興味があったのでちょうどよかった。実相寺作には及ばないがこちらも素晴らしい。 明智小五郎などの探偵役は一切現れず、関東大震災というデウス・エクス・マキナ的展開で物語が収束するところが興味深い。ここまでくると江戸川乱歩原作というよりも完全なオリジナルだ。ロマンポルノだからこそできた大胆なアレンジだとも思う。
 原作である「屋根裏の散歩者」という作品は映画化するにはあまりに短い作品だ。筋立て自体も至ってシンプルで、これらの映像作品にあるようなめくるめくエロスの要素は皆無と言っていいので、映像を先に知っている人間は拍子抜けしてしまうかもしらない。作品自体がシンプルあり、「屋根裏から他人の私生活をのぞき見る」というコンセプト自体が非常に優れているため、映像化に際しての脚色が生きてくる。本作が短編にもかかわらず度々映像化されているのはそのためだろう。このような脚色に否定的な原理主義的ファンの意見も解らなくはないが、必要以上に原作に忠実であろうとする「文学崇拝」の空気が映画をつまらないものにしてしまうことはよくあることなので*1、五分五分だと思う。むしろ原作を破壊し、新たな創造性が羽ばたく前述のような作品群を支持したい気持ちの方が強い。

*1:姑獲鳥の夏」なんかは原作至上主義が裏目に出てしまった格好のサンプルだ。