Devil's Own

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カール・ドライヤー日本最終上映

  • 「怒りの日」(カール・T・ドライヤー)
  • 「奇跡」(カール・T・ドライヤー)
  • ゲアトルーズ」(カール・T・ドライヤー)

 ドライヤー、見てまいりました。最終上映、ということだったが別段プリントの劣化が激しいわけでもなく、もっとバンバンかけて欲しいと思う。クリアランスとかの問題なんだろうが。3本とも初見。出来れば全部見たかったなぁ。。今回のラインナップを好きな順に並べると「怒りの日」、「裁かるるジャンヌ」、「奇跡」、「吸血鬼」、「ゲアトルーズ」という感じだろうか。あくまで今の気分かつ初見の印象だけれど。
 「怒りの日」は久しぶりに震えがとまらない、オールタイムベスト級の傑作だった。テーマも、カメラワークも「裁かるるジャンヌ」に共通しているが、「怒りの日」では善悪の観念がより曖昧になっている。カメラと登場人物、双方の動きが緻密に計算されている。冒頭、魔女狩りの標的となり追い詰められた老婆が馬小屋へ逃げるまでのワンシーンワンショットからして持ってかれる。光と影を巧みに作り出す照明設計も、ただただカッコいい。そして、何よりもこの作品の魅力は、目まぐるしく表情を変化させ物語を翻弄する主人公アンネの存在に外ならない。時には聖女に、時には魔女、娼婦へと印象を変える彼女の目つき、髪型、仕種のひとつひとつに陶酔・戦慄する。息子を誘惑するくだりにおける表情の艶かしさも凄いが、歳老いた夫に呪詛の言葉を吐くシーンは、陰影を巧みに用いた照明設計で、本当に夫を呪い殺さんばかり(いや、実際呪い殺してしまうのだから)。
 それから、この作品に影を投げかける母子相姦というテーマも、指摘できるかもしれない。夫と先妻の息子と関係を持ってしまうアンネもであるが、アンネを疎ましく思う姑の息子に対する異様な執着も、何やら忌まわしい印象を観るもの与え、終盤で重要な意味を持ってくる。厳格な世襲・習慣に搦めとられた家庭の重苦しい空気は絶えず刻まれる振り子時計の音に象徴される。対照的に、母子(と同時に恋人)であるアンネと息子が禁忌的な遊戯に耽る小川での場面は、柔らかな自然光と川のせせらぎによって、生(=性)の喜びに充ち満ちている。二人がボートに乗るシーンなどは、ジャン・ルノワールのフィルムのように官能的でむせ返るくらいだ。二人の別離と破綻を予感させる幾度目かの逢瀬では濃い霧が立ち込めているのも絶妙。この霧の、じとってした質感がまたすごいんだよなぁ。
 「奇跡」も物凄くよかったし、肩の力が抜けていて好きなんだけど、やはり「怒りの日」がサスペンスフル過ぎて。なかなか賛否が別れる作品という気がした。小津のような人情劇かと思いきや、いや人情劇ではあるのだが。終盤ヨハネスが正気に戻ったり、若者たちの結婚もOKになったり、インガは復活したりと最終的にはバンバン奇跡が実現してしまうわけで、それでは奇跡の矮小化にはならないかという疑問が残る。ま、泣いたけどね。
 「ゲアトルーズ」はずっと登場人物が恋愛論していて、高尚過ぎて、僕にはよくわからなかった。とにかくヒロインのゲアトルーズが、気に入らない。甘ったれてるし、そのくせ自尊心は強い。「自分は孤独だ」とか言うわりに、いつもかまってくれてちやほやしてくれる男が側にいないと気が済まない、典型的な恋愛依存症にしか見えなかった。大人になったらわかるのだろうか。若い恋人と密会するシーンとか。会うなり割とがっつりしたキスをしてきて、更に「愛してる?」「うん」「言ってよ」「愛してるよ」「もう一度」「………愛してるよ」って会話とか。恋人のうんざり具合はよかった。ゲアトルーズは愛を優先しているというより、恋を優先してるように見える。しかも、「私も愛するからあなたも愛して」的な身勝手なやり方なんだよなぁ。。ゲアトルーズと男性を正面から捉えたショットが主で、ちょっと個人的にはややマンネリで、ノレなかった。ラストでゲアトルーズがバイバイするシーンは、最終上映なのでちょっと粋だったと思う。
 というわけで、「怒りの日」が凄すぎたので、結果他2作に点が辛くなってしまった。つうてもどれも繰り返しみたいものばかり、DVDは廃盤なのか、異様に高い。

裁かるゝジャンヌ クリティカル・エディション [DVD]

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吸血鬼 [DVD]

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怒りの日 [DVD]

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