Devil's Own

cinema, music, book, trash and so on...

ダイシックスは今日もたゆみない努力を続けています。

 先日は何の脈絡もなくシオノギ製薬の昔のCMを羅列したことで皆さんを恐怖と混乱に陥れてしまい申し訳なく思う。実はmixiの方でも全く同じことをして、危うく友人を減らすところだった。しかし、言わせてもらうならば僕はシオノギのあのCMに心底感嘆したのである。僕は昔放映されていた少し不気味なCM(ローカルCMも好きだ)を偏愛しており、某掲示板などで名前が挙がるそうしたCMを動画サイトで片っ端から閲覧し場合によっては収集するという趣味をかなり前から持っていた。公共広告機構が製作した一連のCMやクリネックスティシュー、JUNGLE、十仁病院、はぎや整形などは有名だ。こうしたCMは昔ローカル枠で深夜に幾度となく放映していたものが多く、そうしたシチュエーションを想像しながらみるとまた味わい深い。シオノギ製薬のCMもこうした中でよく挙げられるものである。BGMもなくナレーションとクレジットのみという素っ気無さが不気味さを助長している。ファンヒーターなどの欠陥商品回収のCMなどもこうした系譜で語られることが多い。最近だとマンナンライフ蒟蒻畑発売停止のお知らせCMなどはなかなか秀逸な出来だった。
 しかし、僕は何もシオノギ製薬のCMの異物感だけに惹かれたわけではない。その純粋で誠実な姿勢にこそ感動したのだ。トレンディな芸能人を起用し、偽善的なキャッチコピーをどばどばと頭の中に注ぎ込んでくる昨今のテレビCMの猥雑さと比べ、この簡潔さはどうだろう。こんなに完璧なテレビコマーシャルがあるか、全く打ちのめされる。最近のテレビCMの邪悪さには恐怖すらする。テレビCMはいつしかコンテンツそのものだけに止まらず、ポップミュージックや映画まで侵食しつつある。すべてが胡散臭い。今の僕にとってテレビを見ることは何より過酷な労働だ。「電○」とか「博○○」とかに就職したいと無邪気に言っている大学生は多い。その大半が、そうした広告会社の格好の餌食となりうる善良な人々であり、本気で言っているのか頭を抱える。あんなふうに人々を洗脳するような仕事はしたくない。少なくとも僕はです。そうした企業で働いている人はそれでご飯を食べているのですからそうした労働を貶めるつもりはありませんよ念のため。
 それにしてもシオノギのCMの禁欲性は殆どブレッソンの域ですらある。凡百のいわゆるフツーのテレビCMに変わってしまったのは、時代の流れとは言え実に嘆かわしい。
 更に言ってしまおう。僕はシオノギ製薬のようなブログを書きたいのだ。何の邪念も衒いもなく徹底して簡潔に研ぎ澄まされた言葉だけで文章を紡いでゆきたいのだ。皆さんそうだと思うが、僕は別にブログを書くために映画を見たり、音楽を聴いたり、本を読んだりしているわけではない。勿論面白いから、楽しいからではあるが、未知のもの、不定形のもの、曖昧なもの、奇妙なものに触れたくて、知りたくて、見たり聞いたり読んだりしているわけだ。そして、そうしたものから受けた感動、心揺さぶる何か、その正体を知りたいという欲求が、そうしたものについて語り、書くことに僕を駆り立てるのだ。それなら、別にわざわざブログに書いて不特定多数の人間に公開しなくたっていいじゃないか。その通りですね。だからここまで言ってしまおう。僕はやはり、「映画が好きな、音楽が好きな、小説が好きな自分」が好きなのである。自意識が過剰なのである。最近の批評家筋(と批評家気取り)にはどうにもこうした自意識を蔑視する傾向があるが、別にいいではないか、と思う。「映画が好きな自分」が好きで何が悪いのか。それを蔑視する人はそんなに映画が大事なのだろうか。見上げたものである。僕は、ぶっちゃけ映画よりも睡眠が、食事が、セックスが大事だ。普段はその全てに対して映画や音楽を優先した生活をしている(ように見える)が、あらゆる局面で常にそうできる自信はないし、そうした人がたくさんいるとも思えない。そうした欲求は全て自己保存に基づいているし、それはやはり自己と結びついている。だからやはり僕は『「映画が好きな自分」が好きな自分』を肯定しておきたい。しかし、そんな自意識はやはり極力は抑制しなくてはならない。みなさんも「映画が好きな自分」大好きブログや「音楽好きな自分」大好きブログが時としてイタくて見るに耐えないものであることをよくよくご存知だと思う。まぁ僕が普段閲覧しているブロガーの皆さんはそうした自意識の抑制が本当にうまい人たちばかりで尊敬しています、いやマジで。僕はと言えば「自分は違うよね」って思うようにしているが、多分僕もそうして何人もの人々を不快にしてきたに違いない。なぜなら僕だってそうした自意識を否定できないからだ。
 じゃ、どうするどうすればいいんだ。そこで、シオノギ製薬のCMである。この恐ろしい禁欲性。「あなたの健康に奉仕する」なんて大層なキャッチコピーである。本当は自社の薬を売りたくて売りたくてたまらないが、そこは出さない。だからと言って隠すわけでもない。本当に伝えるべきことだけを伝えている。その真摯さが不気味なのだが、本当に不気味なのはこのシンプルなCMを異質だと思わせる広告の体質ではないか。
 ということで、僕は今日も弛みない努力を続けるため、グリフィスの短編集を見る、というのは嘘でこれからレポートにいそしむのだ。