Devil's Own

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『ウォッチメン』


 原作も読んだことがないというのもあり、映画の情報量にただただ圧倒されるのみといった感じだ。重厚なキャラクターと複雑な物語は、ヒーロー映画というよりもヒーロー論映画と表現する方がしっくりくる。その一方でザック・スナイダー語り口は前作と変わらず、スローモーションの多用や即物的な暴力表現による「わかりやすさ」に腐心している。こうした表現は一見チープで軽薄なのだが、アクションとしての「暴力」に関して、スナイダーはジョン・ウーよりも遥かに知り抜いている。彼が優れたアクション作家であり、批評家であることは傑作『ドーン・オブ・ザ・デッド』を見ればわかる。『ドーン・オブ・ザ・デッド』のオリジナル『ゾンビ』はたいていはホラー映画の棚に置かれてはいるが、実のところ明らかなアクション映画であることは黒沢清が指摘する通り。設定も基本的なアウトラインもオリジナルと変わらない『ドーン・オブ・ザ・デッド』を傑作にしたのは、アクション映画としての『ゾンビ』の性格をきっちりと踏まえた上で脱構築してみせたスナイダーのクレバーさにほかならない。
 そのうちアメリカ映画は、『ダークナイト』以前/以後というタームで論じられるとおもうが、そうした文脈において『ウォッチメン』は『ダークナイト』以後の映画のひとつと言われるだろう。その意味では今日的なアメリカ映画だといえるかもしれないが、不思議にも『ダークナイト』以前のアメリカ映画を見ているような既視感におそわれる。雨の中の埋葬シーン*1は、『裸足の伯爵夫人』(1954)をおもわせるし、名曲「ハレルヤ」をバックとしたベッドシーン*2は『トップガン』を彷彿とさせる。ほぼ全編が闇夜もしくは雨の日を舞台としており*3、陰鬱ななフィーリングが貫いているゆえに、近い質感の映画として『ブレードランナー』を挙げる人も多いかもしれない。『ウォッチメン』は『ブレードランナー』と同じく、見たものの心に大きな爪あとを残し、やがて心をとらえて離さなくなるだろう。
 と、もっともらしいことは書いてはいるけれど『ダークナイト』も『ブレードランナー』もどちらかといえば苦手な映画で、だから『ウォッチメン』ももしかしたらそんなに好きではないのかもしれない。それを確かめるために再見はしたい。
 そうそう社会人になったんですよ僕も。あと、『ワルキューレ』に関してはmegtalkさんの所見がもう全面的に同意なので書かない。

*1:BGMは「サウンド・オブ・サイレンス」!!

*2:絶頂表現が『ヤッターマン』なみに馬鹿馬鹿しくてよい。

*3:この映画で晴天はほとんど見られない