Devil's Own

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くるり『魂のゆくえ』

魂のゆくえ

魂のゆくえ

 くるりは本当にヘンなバンドだとおもう。メロディー自体はキャッチーで軽妙なのに、音づくりはかなり前衛的でマニアック。ジャズやクラシックと並行して聴くリスナーもいれば、ミスチルと同列にフェイバリットとして挙げる人もいるかもしれない。アルバムごとの振れ幅が極端に大きい。全世界を探しても、たとえば『ワールド・イズ・マイン』と『NIKKI』のように両極端な2枚のレコードを作ることができるのはくるりプライマル・スクリームくらいなものだろう。新作『魂のゆくえ』は、くるりの音楽の前衛性と通俗性*1のバランスが最もよくとれたアルバムだとおもう。混沌の中にずぶずぶと嵌まり込んでいくような『ワールド・イズ・マイン』のディープさが好きだった人間からすると少しだけ地味な印象もうける。バンドというよりは、「バンド後」のソロアルバムを聴いているようなパーソナルな質感があり、収録曲の多様さも手伝ってか、僕なんかは、ジョージ・ハリスンの『オール・シングス・マスト・パス』を連想した。メランコリックな歌詞とアートワークはニック・ドレイクの遺作『ピンク・ムーン』も思い起こさせる。リスナーひとりひとりの物語に寄り添い、結果として最も多くの人たちに愛されるアルバムになるのではないだろうか。決して最大公約数に迎合したということではなく、岸田繁という極めてストイックでエゴイスティックなソングライターの感性が、普遍性を獲得したという意味で新しいマスターピースとなった。くるりは傑作しか作らないな。
 どうでもいいが、今月号のスヌーザーの表紙及び104ページの岸田繁の写真が、自分に見えて仕方がないのだが気のせいだろうか。正直不気味なくらい酷似しているのだが。

*1:敢えてこう言わせてもらう。