Devil's Own

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『川の底からこんにちは』


 上京して5年目の佐和子(満島ひかり)は、大したことない職場で働き、大したことない彼氏(子持ち)と付き合い、大したことない毎日を送っている。佐和子は自身のことを「中の下」であると評価しているのだが、この「中の下」という言葉が映画全体を方向付けている。基本的に閉塞した日常を描いてはいるのだが、そこには常に独特のユーモアが添えられており、それがこの映画を辛気臭いペシミズムから救い出しているのではないか。とても現代的な問題を扱っているし、風刺に富んだ作品でもあるのだけれどあくまでもコメディ映画として勝負しているところには好感がもてるし、実際、暗澹として希望の見えない現実に唯一対抗しうるものがあるとすれば、こうしたユーモアなのではないか。あとは音楽くらいか。満島ひかりが相変わらずキュートなのだけれど、この映画の中ではちゃんと「中の下」の女に見えるのだよな。田舎のおばさん達による排他的なコミュニティやへたれで甲斐性のない彼氏(遠藤雅)などもちょっと過剰なくらいカリカチュアされてはいるが、満島の実在感もあって気にならないし、むしろ映画全体のチャームになっている。佐和子と彼氏の連れ子である加代子(相原綺羅)の奇妙な擬似親子関係も魅力なのだが、この映画の重要な主題として、「母性」を指摘することが出来るかもしれない。その意味でこの映画は、成瀬や宮崎駿に負けないくらい力強く美しい女性映画だともいえるのだ。