Devil's Own

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『仮面ライダーW FOREVER AtoZ 運命のガイアメモリ』(坂本浩一)

2010

 『仮面ライダーW』(以下『W』)は気がついたときに見るくらいだったのでそこまで熱心な視聴者ではなかったが、コメディの配分やテンポもよかったし毎回わりと楽しくみていた。今回の劇場版は、本編ドラマのクライマックスを盛り上げつつイベント映画としても楽しめる丁寧な作りになっている。ふたりで一人のライダーというアイディアや、舞台となるのがひとつの街のみであるという適切なスケール感、『ルパン三世』や『探偵物語』を思わせるコメディとハードボイルドの絶妙なバランス感などシリーズ自体の完成度の高さにも改めて認識させられた。原点回帰したと思しき仮面ライダーWのシンプルなデザインもカッコいいんだよな。劇場版のストーリーもいたってシンプルであり、「T2・ガイアメモリ」という次世代テクノロジーの争奪戦を背景として、謎も多かったフィリップ(菅田将暉)の精神的成長が描かれている*1。飛び道具や派手なCG処理を抑えた、肉体で見せるアクションはどれもかっこよく、特にマシンガールこと八代みなせが悪役として登場し素晴らしい立ち回りを見せてくれている。マシンガールが東映の映画に出ているのもなんだかうれしい。坂本浩一は昨年手がけた『ウルトラ銀河伝説』を見たときはバトルシーン以外の杜撰さに辟易させられたが、今回はアクションシーン以外も見やすく丁寧に作られていて感心した。
 それにしても、一度でもヒーローに夢中になったことがある男子であれば、終盤のストレートな展開に燃えずにいるのは難しいだろう。孤高の仮面ライダーが、街の人々を、というよりも街そのものを味方につけ、ほとんど敵いそうにもなかった強大な相手に打ち勝つ。こうした展開は昨今のライダーシリーズにはあまり見られなかったものだし、私も思いがけず涙を流してしまった。感心したのは、クライマックスの展開が仮面ライダーとってある種の存在論となっている点である。本来、仮面ライダーはショッカーによって作られた未完の改造人間である。未完というのは仮面ライダー=本郷猛が自意識を奪われる直前にショッカーを脱出したからであり、こうした呪われた出自がシリーズに独特の悲哀をもたらしていた。邪悪なテクノロジーをルーツとしながらぎりぎり残った人間性をもって孤独に正義を貫いていく。仮面ライダーとショッカーの闘争は、そのまま自己との闘争でもあり、崩壊寸前のアイデンティティの中で真の存在意義を獲得するプロセスでもあるのだ。傷ついたマスクから滲み出るペーソスはダークナイトの比じゃないんだよ。そして今回、敵対する傭兵集団NEVERは仮面ライダーWと同じテクノロジー(次世代へと改良されている)を使用しており、メンバーのそれぞれがWの戦闘能力を踏襲したいわばライダーの分身として登場する。あまつさえNEVERのリーダー大道克己(松岡充)は仮面ライダーエターナルに変身し「お前は俺と同じ化け物だ」とフィリップに言い放つ。大道克己のキャラクターは、フィリップの「分身」としての性格が強調されており、今回の戦いがW(特にフィリップ)にとってもうひとりの自分との戦いでもあることが示唆されるのだ。このあたりの決着も含め、終盤の展開は本当に良くできていたとおもう。傑作。

*1:物語の時系列でこのエピソード後まもなくフィリップの母親が明らかになるのだが、このあたりのリンケイジもうまい