Devil's Own

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Suede

スウェード(コンプリート・エディション)(DVD付)

スウェード(コンプリート・エディション)(DVD付)

 私の大好きなイギリスのロックバンド、スウェードの全オリジナルアルバムが豊富なボーナスコンテンツを追加したリマスター盤として再発された。私はリアルタイムでスウェードの音楽に触れたわけではないけど、高校生のころむさぼるように聞いてましたね。まさにdrownerという感じで。スウェードはバーナード・バトラーの脱退前/後でずいぶん音楽性が異なるのだが、私はどちらも好きで、やはりブレット・アンダーソンの艶めかしいヴォーカルとデカダンで耽美主義的な詩世界に惹かれていたところが大きい。今思えばブレットは同性愛者ワナビーのとんだハイプ野郎なのだが、セリーヌやジュネに耽溺する高校生だった私はすぐに夢中になってしまった。結局私はポリスとかスミスのように偽悪的な人達が好きなんですよ。
 リマスター盤は7月にいつの間にかリリースされていて驚いたが思い入れの強い1枚目と3枚目をとりあえずアマゾンで注文した。全アルバムが3枚組という垂涎の豪華仕様で3000円を切る価格設定もうれしい。ディスク1はオリジナルのリマスター音源に加えてデモトラックを収録。ディスク2はシングルのB面曲などをコンパイルしている。DVDはシングル曲のヴィデオクリップと当時のライブ映像などで構成している。届いてすぐに聞いてみたリマスターは音質が良くてかなり驚いた。各パートのサウンド(特にドラム)が格段にクリアになっていて聞こえ方が全然違う。特にファーストアルバムは今回のリマスターで再度はまりそうですね。バーナードのギターで埋め尽くすような従来のミックスにもメランコリックな味わいがあったが、リマスターはぐっと風通しが良くなってみずみずしい。ブレットのボーカルとバーナードのギターの絡み合いもより色っぽさとスリリングさを増したように感じる。「メタル・ミッキー」や「ムービング」などはキラキラすらしていてファーストアルバムならでは原初的な喜びがある。多分今の10代が同時代の感覚で聞いても素直にかっこいいと思えるのではないか。
 DVDの目玉は2つあって、ひとつはブリットアワードで「アニマル・ナイトレイト」をプレイしたときの映像。マイクのコードで自分の尻を叩くブレットの刺激的なパフォーマンスが脚光を浴びネットでも閲覧できる有名な映像だが、大画面で見ると観客のどん引き具合がわかって楽しい。演奏も粗削りだがスキャンダラスなバンドの登場を追体験できる。もう一つは新録されたと思われるブレットとバーナードのインタビュー。バーナード脱退後、2人が「スウェード」として画面に登場するのは初めてだとおもう。ファーストアルバム制作時のエピソードをわりと淡々と話しているのを見るとブレットもだいぶ落ち着いたなという気がするが、随所に2人の対照的な性格がかいま見える。当時のブレットは過激な言動ばかり取りざたされていたようだが、音楽性についても案外きまじめに考えていたことが分かって興味深い。元来ブレットはシャイな奴なんですよ、過剰なくらいに。「当時は自分のことに忙しくて歌詞とか全然聞いてなかったよ」って思わずもらしちゃうバーナードに一瞬「えっ」ってなりながら大人の対応をするブレットがおかしい。あとスミスの影響でデビュー時はB面曲にもすごくこだわっていたと話していて、なるほどディスク2に収録された曲はどれも完成度が高いと頷かされもした。
 「カミング・アップ」は一回通して聞いただけですがこちらも音質は良好。前述したように私にとってスウェードの魅力はブレット・アンダーソンに依るところが大きいので、1番好きなのはバーナード脱退後のこのサードアルバムなのだ。スノビッシュですらある黄金の3分間ポップスたち。「トラッシュ」「ビューティフル・ワンズ」「フィルムスター」などシングルに切られた曲は特に完成度が高い。セクシーさは鳴りをひそめつつも退廃的なムードを残したリリックもこの時期が1番洗練されているとおもう。ブレットがこのアルバムを「第2のファーストアルバム」と語っているのも頷ける。これからじっくり聞きたいとおもいます。たぶんほかのアルバムも買ってしまいそうですね。