Devil's Own

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『総天然色ウルトラQ』

"Ultra Q(Colorize)"2011/JP

『スーパーマン』のボックスが当初の予算よりはるかに安価で手に入ってしまったことから、迷いを吹っ切り購入。45年前に放映された伝説の特撮テレビ番組、ご存知『ウルトラQ』を最新のデジタル技術でカラー化したという衝撃の商品だ。
 『ウルトラQ』のカラーライズという企画はかなり前から耳にしていた。数年前に発売されたDVDの特典映像などでも当時のスタッフや役者がカラー企画の存在に触れていたからだ。おおむねの総意としては「やっぱりモノクロがいい」という意見だったように記憶している。本シリーズの色彩、照明設計はモノクロ放送を前提にしているのでカラー化への疑問は当然ある。いや常識的に考えてですよドライヤーやムルナウの作品をカラー化と言われても素直に喜べないですよね。
 かくいう私もカラー化に関しては不安が大きかった。モノクロでしか表現し得ない「暗さ」が『ウルトラQ』の大きな魅力だとおもうからだ。事前にサンプル映像が発表されていたがコントラストが弱くくすんだように見える色彩設計が引っ掛かった。でも見たい。それが特ヲタの心情というもの。
 BDが届き数話見てみたが、カラー化の色彩設計についてはやはり賛否が分かれるとおもう。前述した通り全体的に色味が薄く、特に人の肌色などはのっぺりしてところどころ白トビして見える。第8話『甘い蜜の恐怖』や第12話『鳥を見た』(大傑作!)では同時代の総天然色映画『空の大怪獣ラドン』の映像が流用されているので比べてみたが、やはり全体的に抑えた色調が採用されているようだ。メイキングなどを見ているとフィルムグレインを忠実に再現したりと「当時の質感」に相当こだわったようなのでなるべく自然な発色になるように試行錯誤した結果なのかもしれない。
 難点ばかり挙げたように見えるかもしれないが結論から言うと、多少値が張ってもこのBDボックスは買いだ。あまり話題になっていないがこのBDボックスにはカラー版だけではなくオリジナルのモノクロ版もHDリマスターで併録されている。はっきり言って本当の目玉はこのモノクロ版だと言っていい。それくらい画質の向上が目覚ましい。元々ウルトラシリーズのDVD化はクオリティの高さに定評があって、『ウルトラQ』もDVDの時点で既に驚異的な高画質だったが、今回のBDはそれをはるかに上回る出来。細部のシャープさはモノクロの方がむしろ際立つ。1シーン1シーンに当時のモノクロ映画技術の粋を尽くしていて、完成されたうつくしさがある。当時は円谷プロと蜜月関係にあった東宝の人材も多数かかわっており、あらためてスタジオ撮影の基礎体力の高さ感じさせた。もしカラーライズが気に入らなくてもオリジナルのモノクロ版だけで十分元は取れる。カラー版はおまけくらいに思っていいとおもう。
 もちろんカラーになって良くなったところもある。最大の魅力は時代の息吹がリアルに感じられる点だ。60年代の洗練されたファッション、自動車、建築物をカラーで見られるのはうれしい。周到な調査が必要だったとおもうがすごく自然に彩色されており、なにげないロングショットにもはっとさせられる。『クモ男爵』のような怪奇色の強いエピソードはやはりモノクロの方が好みだが、『SOS富士山』や『ガラダマ』のような野外ロケの多いエピソードではカラーライズが威力を発揮する。
 怪獣たちのカラーリングに関しても残された資料を徹底的に検証して忠実に再現したようだ。つまりこれまでモノクロでしか見られなかったゴメス、ナメゴン、ペギラなどの彩色が初めてオフィシャルな形で発表されたことになる。見る者の想像力がもっともかきたてられるポイントだった怪獣たちの色が固定化されたことには一抹の寂しさもある。でも真っ赤なガラモンが暴れまわるところなど単純に楽しい。基本的に『ウルトラQ』の怪獣たちは元々がモノクロ用に作られているので当然のように地味なんですよね。でもそこがたまらなくいいんですよ。

追記

とりあえず全話を見てみたが、着色の自然さ、美しさはエピソードによって差があることがわかった。初見時の印象で挙げたいくつか難点はほとんどのエピソードでは気にならないレベルだとおもう。『ゴメスを倒せ』や『マンモスフラワー』など初期エピソードはマスターフィルムを使用することが多かったのかフィルム傷や画面のちらつきが目立つ気がする。しかし発色、画質ともにディスク3、4収録のエピソードはどれも安定している。
 現在のところ、カラー版のすばらしさがもっとも堪能できるのは『ガラダマ』だとおもった。他の怪獣に比べてガラモンのカラーリングが派手というところも大きい。実は今回の総天然色ウルトラQの試作第1号に選ばれたのが『ガラダマ』だったそうだ。言ってみれば『ガラダマ』のカラー化があったから、全エピソードのカラー化が実現したわけである。非常に正しい判断だったとおもう。とにかく総天然色ガラモンはものすごくキュート。かわいすぎて毎日見てる。モノクロと見比べても別物といっていいくらい印象ががらりと変わった。あまりに違いすぎてもうどちらがいいという問題ではないような気がする。どっちもいいよ本当に。vol2に収録される『ガラモンの逆襲』が早くみたい。

『総天然色ウルトラQ』Blu-ray BOX I

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