『アラサーちゃん』(峰なゆか)
- 作者: 峰なゆか
- 出版社/メーカー: メディアファクトリー
- 発売日: 2011/11/18
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
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モテテクと自意識のはざまでぶれにぶれまくっているアラサーちゃんを中心に、ゆるふわちゃん、ヤリマンちゃん、文系くん、オラオラ君など身も蓋もない名前のキャラクターの悲喜こもごもを描いた4こままんが。どのキャラクターも類型的な描き方をしつつも、峰ならではの風刺とゆがんだ自意識が冴えまくっておりひねりが利いている。ヴォネガットやドストエフスキーに傾倒する一方でアダルトビデオというスノビッシュな業界を経験した彼女にしか描きえない世界観なのではないか。わけても文系くんへの愛憎入り混じったまなざしはすごい。むかし峰が「オナペットとしての村上春樹の可能性」という価値観を展開していたときに、私は目からうろこが落ちるような気がしたものだが、文系くんの造形にはそんな彼女の真骨頂が現れている。こういう視点って今までありそうでなかったとおもうんですよね。じっさい、今の日本社会を一番うまくサバイヴしているのは文系くんですよ。本当に奴らは非モテアピールがそのままモテへとつながっていくんですからね。ほんととんでもない悪魔ですよ。対して女子側の非モテちゃんの救いのなさはどうだろう・・・こんな格差があっていいのか!
恋愛もセックスも一見誰に対しても平等に自由に可能性が開かれているように見えるが、そこにはいくつものマニュアルや決まりごとがあふれかえっている。いざ男女関係を築こうとしたとき、そのプロセスの多様さ、道具の豊かさに私たちは呆然と立ち尽くしてしまうのだ。そんな飽和状態の恋愛観やセックス観にがんじがらめになってしまった人々の右往左往を、独特のユーモアとペーソスで峰は描き出していく。その手つきには嫌味がなく、どのキャラクターもキュートでいとおしいんですよね。ゆるふわちゃんも、オラオラ君も、文系くんも、ヤリマンちゃんも私の知り合いにいるし、いつもこき下ろしている気がするが、こうして見てみるとそれぞれに面白みがあるのだなという気がしてくる。アラサーちゃんだけは周囲の登場人物を冷静に分析しているように見えるが、アラサーちゃん自身の自意識が過剰なものだからそこでも身動きがとれなくなってる。ラストに収録された「ふみこめないもの同士」とか笑いながらも切な過ぎて泣きそうになってしまった。私は「恋愛やセックスの過剰なマニュアル化に支配されているうちは、アメリカのようなラブコメ映画を日本で作るのは不可能さ(`・ω・´)キリッ」とか超すかしたこと思っていたけど、この本は日本でのラブコメのひとつのあり方を示してくれている気がする。4こま形式をとりながら大きなストーリーも連作ですこしずつ紡いでいってほしいとおもった。