Devil's Own

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さようなら2011(映画編)

 メリークリスマス。いえーい。最後に映画のベスト10です。転職に伴い私も地方ブロガーへ。都心に住んでいた頃とくらべ話題作を見逃し歯がゆい思いをすることも多かった。出張の合間に見に行ったり、たまの休日に福岡まで遠征してみたりもした結果今年の劇場観賞本数はのべ71本、リバイバル上映や再見を差し引くと新作は1月14日に見た『きみがくれた未来』から12月26日に見た『ミッション:インポッシブル/ゴースト・プロトコル』までの56本でした。例年よりがくんと減ってしまったが充実度では例年以上だった印象。悩みに悩んだが今年はこの10本でお願いします。

3.『猿の惑星:創世記』(ルパート・ワイアット

"Rise of the Planet of the Apes"2011/US

5.『イップ・マン 序章』(ウィルソン・イップ)

"葉問(Ip Man)"2008/HK

6.『ヒア アフター』(クリント・イーストウッド

"Hereafter"2010/US

7.『先生を流産させる会』(内藤瑛亮)

"Let's-Make-the-Teacher-Have-a-Miscarriage Club"2011/JP

8.『ステイ・フレンズ』(ウィル・グラック

"Friends with Benefits"2011/US

9.『スプライス』(ヴィンチェンゾ・ナタリ

"Splice"2009/CA・FR

10.『エンジェル ウォーズ』(ザック・スナイダー

"Sucker Punch"2011/US

以下、『アンストッパブル』『イリュージョニスト』『スコット・ピルグリムVS. 邪悪な元カレ軍団』『ミッション:インポッシブル/ゴースト・プロトコル』『スーパー!』『SUPER 8』とつづく。
 毎年のことだがアメリカ映画強し。見たものはもれなく面白かった。世評の高さに裏切られることが多い自分にとってめずらしい年だった気がする。まあ、世間で話題作だった『パイカリ』とか『ハリポタ』とか『ツーリスト』とかまったく見てないので本当はそこまでマスに歩み寄れているわけではないのかもしれないが・・・。それでも近年のアメリカ映画に見られるある種の傾向に自分が必要とするものが入っていたのは確かだ。
 『ブラック・スワン』、『ソーシャル・ネットワーク』というオールタイムベスト級の傑作に2本も出合えたことはとりわけ幸福だった。この2本何回見ただろうか・・・。年間ランキングを表明するとき「この映画は傑作だけど誰かが推すだろうから挙げない」というような書き方をする人がいる。私にはその気持ちがなんとなくわかる。この2本は多くの人に支持される一方でほころびの少なさゆえに個人的な強い思い入れを持たれにくい優等生タイプの映画といえるかもしれない。
 だが実のところこの2本には欠点もある。バレエに興味を持つようになった私はここ半年でいろいろと勉強してみたのだが『ブラック・スワン』におけるバレエ文化やそこに身を置く人々の描写は非常に浅薄でステレオタイプなものだとわかる。実際のダンサーたちの驚異的な身体表現にふれるとナタリー・ポートマンの演技などまったく生ぬるい。CG処理を全開にしたクライマックスの「黒鳥化」などは怒る人すらいるかもしれない。同じ指摘は、フェイスブックの創設者を描きながらもSNSの仕組みやそれが社会にもたらした影響についてほとんど触れることのない『ソーシャル・ネットワーク』にもついてもいえる。つまりこの2本は言われているほどりっぱな映画ではないんですよ。それでもこの映画に登場するニナやマーク・ザッカーバーグが抱きしめたくなるくらい好きなんですよね。私はこの2本を全力で愛すことに決めたのだ。
 3位の『猿の惑星』も含めて私はつくづく優等生タイプが好きなんだなと。上位3本はシェイクスピア悲劇を端とする古典的なドラマツルギーの強度をあらためて感じさせもした。『トゥルー・グリット』や『ステイ・フレンズ』のようにジャンルの定石を押さえながらしっかりと新しい風景を見せてくれた作品も印象ぶかい。
 2011年そのものを振り返るとき、『ヒア アフター』について語ることは避けられない。私がこの映画を見たのは3月11日以前。凄惨を極める津波の場面を今直視できるのか、正直言って自信はない。3月11日の津波の映像は物語を簡単に凌駕し、すべての物をのみこみながら私たちのまなざしを決定的に変えてしまった。こんなに苛烈な現実があるのにのんきに映画なんて見ている場合か。誰の胸にもそうした自問自答は少なからずあったとおもう。それでも私が『ヒア アフター』を必要としているのは、期せずして死に近接してしまった人々がつながりを通じて再生する物語でもあるからだ。
 アメリカ映画以外は3本のランクインになった。『イップ・マン 序章』は既にクラシックの風格すら漂う大傑作。続編『葉問』とともに折にふれて見返すだろう。『スプライス』は今年1番のダークホースだった。いびつなイマジネーションを扱う一方で語り口や舞台設定のていねいさにも好感を持った。個人的にはまったく興味がなかったヴィンチェンゾ・ナタリだが、同じくカナダ出身のクローネンバーグの後継者として今後も注目していきたい。
 いよいよ日本映画に興味がわかなくなってしまったが、カナザワ映画祭で上映された『先生を〜』は突出していたとおもう。剣呑なタイトルに偽りなし。高純度の毒物を久々に見ることができた。内藤瑛亮監督は恐るべき才能だ。片道8時間近くかけて足を運んだ甲斐があった。一般公開を切に願うし、これをきっかけに商業映画を撮る機会が増えてくれればとおもう。併映の『へんげ』(大畑創)も大傑作だったが、こちらは来年公開が決まったそう。都心に住む人は責任を持って見に行ってくださいね。
 ラスト1本は迷いに迷ったあげく、酷評をもって迎えられたザック・スナイダー渾身の一作に。男たちの欲望に支えられた世界の中で負け戦に挑む少女たち。その姿は第1期『セーラームーン』のあの絶望的なまでに苛烈な最終決戦を思わせる。全体的に間延びして単調だし、今後評価される可能性は少ないとおもうが、大学ノートか何かに一心不乱にまんがを書きなぐるスナイダーの背中が見えてくるようだ。もしかするとカルト映画として一部の好事家に語り継がれるかもしれないがそんなことはどうでもいい。心を蝕み、身を滅ぼしてしまうような孤独な想像力に私はうたれるのだった。
 さて、最後に旧作についても振り返ると今年はクロード・シャブロルに尽きる。『引き裂かれた女』の劇場公開に加え、『最後の賭け』『甘い罠』『悪の華』の3本が特別上映。すべて紀伊国屋レーベルでソフト化された(紀伊国屋だから買ってしまったがなんと4本ともレンタルがある!)。キングレコードからは80年代の傑作『主婦マリーのしたこと』『沈黙の女』が初DVD化したのでシャブロルのDVDは今年だけで6本も出たことになる。来年1月は初期の代表作『二重の鍵』のBDリリースも控えているし都心では遺作『刑事ベラミー』の上映も決まったようだ。この調子で彼のフィルモグラフィーがもっと開かれるといいですね。
 最後に今年1番みた映画は大林宣彦『HOUSE』です。くちびる・・・おっきすぎる・・・。

 それではみなさんよいお年を。