Devil's Own

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『アルゴ』(ベン・アフレック)

"Argo"2012/US

 ベン・アフレックの新作。デビュー作からイーストウッドになぞらえられる気持ちはいかほどのものなのかわからないが、これまでの3作品を見る限りアフレックの資質はイーストウッドよりむしろジョージ・クルーニーに近いかもしれない。ものすごい生真面目。イーストウッドはもっと脊髄反射的に映画を撮っている気がする。そんなクルーニーが製作に名を連ねる新作。プレッシャーをものともせず、骨太な快作を撮りあげた。前2作でも見られた70年代映画への傾倒はますます色濃くなっている。ぽつぽつとフィルムノイズのある黒い画面の中にワーナーの旧ロゴが表示されただけで不覚にも胸が高鳴ってしまうのだった。
 『ザ・タウン』では銀行強盗や銃撃戦より、ジェレミー・レナーとレベッカ・ホールを交えた会話劇の緊密なサスペンス演出が突出していたが、新作ではこうした手腕が存分に発揮されている。サスペンスに次ぐ、サスペンス!ワンミニッツレスキューのつるべ打ちである。
 それにしても映画のラスト、主人公の息子の部屋にずらりと並べられたSF映画グッズに並んでついに撮られることがなかった『アルゴ』の絵コンテが映し出された瞬間、私も目頭が熱くなった。これにはちょっと不意を突かれたというか、それまでは「いやーおもしろかったわー」くらいだったんですけどね。この瞬間に『アルゴ』は映画そのものの批評性を獲得したのではないか。実際の写真と映画の写真を並べて表示するエンドロールもすごい。思えばわれわれは2時間、結末が分かりきった史実を見ながら胸をどきどきさせ、手に汗握っていたのである。『アルゴ』に騙されたのはイラン兵だけではなかったということか。作戦の実態が公表されCIA局員の功績は認められても、中絶されたB級SF映画『アルゴ』が日の目を浴びることはないだろう。この映画でアフレックがすくい取ろうとしたのは、CIA局員の功績ではなく、映画、ひいては人間の想像力そのものではなかったか。まだ見ぬSF映画の絵コンテをながめながら不覚にも目を輝かせてしまうイラン兵の表情はどうだろう。311以降、私はどこか物語を信じられずにいた気がする。しかし、厳しい現実を傷だらけで生き抜いていくのもやはり物語なのだ。Argo!Fuck Yourself!!!