Devil's Own

cinema, music, book, trash and so on...

ホラー映画ベスト10(改)

http://d.hatena.ne.jp/washburn1975/20121031
 年の瀬を感じる恒例企画。今年はジャンルの王道ホラー映画で10本とのこと。ではさっそく。

1.『キャリー』(ブライアン・デ・パルマ

"Carrie"1977/US

2.『影なき淫獣』(セルジオ・マンティーノ)

"I Corpi Presentano Tracce di Violenza Carnale"1973/IT

3.『顔のない眼』(ジョルジュ・フランジュ

"Les Yeux Sans Visage"1960/FR-IT

4.『フェノミナ』(ダリオ・アルジェント

"Phenomena"1984/IT

5.『ファンハウス/惨劇の館』(トビー・フーパー

"The Funhouse"1981/US

6.『ドラえもん のび太とアニマル惑星』(芝山努

"Nobita and the Animal Planet"1991/JP

7.『ヘル・レイザー』(クライヴ・バーカー)

"Hellraiser"1987/UK

8.『亡霊怪猫屋敷』(中川信夫

"Black Cat Mansion"1958/JP

9.『未知空間の恐怖/光る眼』(ウォルフ・リラ)

"Village of the Damned"1960/US

10.『クジョー』(ルイス・ティーグ

"Cujo"1983/US

 今回は本当に難しかった・・・。気づけばカーペンターもクローネンバーグもライミもフルチも黒沢清も入っていない。あまりに泣く泣く削ってしまったので未練たらしく候補を挙げちゃいますが、『叫』エクソシスト3』『サンゲリア』『遊星からの物体X』『ザ・フライ』『ブロブ』『血を吸う〜』シリーズ『HOUSE』『吸血鬼』『女優霊』『ザ・チャイルド』『暗闇にベルが鳴る』『回転』あたりか。
 『キャリー』。ホラー映画を見て「きゃー!こわかったー」というのもすきではあるのだが、本当に心に深く突き刺さるホラー映画とはやはりある種の哀しみを伴うものではないか。ホラーを語る上で避けては通れないスティーブン・キングのデビュー作であり、ヒッチコックから受け継いだデ・パルマ神経症的な演出が冴えわたる大傑作。キャリーが報われないのが哀しくて何度も何度も繰り返し見て、でもやっぱりうまくいかなくていつも泣いてしまう。
 『影なき淫獣』。スラッシャー映画の原点ともいわれる残酷でエロくて怖い傑作ジャーロ。土曜ワイド劇場ばりのスノビッシュな音楽にも胸が高鳴る。後半のサスペンス演出は一級品。クライマックスのアクションも異常にうまい。最近リリースされたDVDではエドガー・ライトのフェイク予告編『ドント』の元ネタになったサイケデリックな予告編も見れますが、かっこいいです。
 『顔のない眼』。『キャリー』に通じる哀しい系ホラーの先駆的作品。顔面をやけどした娘の顔を再生するため、若い女性を誘拐し皮膚移植手術を繰り返す医師の狂気。まがまがしい題材とは裏腹にそこには悲しみと美しさが漂う。エディット・スコブの顔はいつ見てもふしぎで魅力的。
 『フェノミナ』。アルジェントは『シャドー』『サスペリア PART2』と迷いましたが、終盤の怒涛の展開があまりに好きすぎるのでこれを。うら若きジェニファー・コネリーに、これまで「少女に見える女性」で我慢していたアルジェントの毒牙が迫る。本物の女優いじめを見よ!
 『ファンハウス』。フーパーもいろいろ迷いましたが、やはり哀しい系で。たのしいお化け屋敷映画の中にフーパーのフリークス愛が炸裂する傑作です。
 6位は『ウルトラマンタロウ』の作品を入れていたが『ドラえもん』の劇場版第11作と差し替え。ドラえもん映画における恐怖演出については昨年に全作品解説エントリで詳しく書いた。4作目『海底鬼岩城』から本作あたりまでのドラえもん映画がいまだに原初的な恐怖体験として心に刻まれている、という日本人は案外多いのではないか。わけても本作と9作目『パラレル西遊記』はその双璧だろう。「ホラー」としてどちらが優れているか悩みどころだったが、F先生独特の異世界の不吉さが濃厚な本作を。
 7位は『怪奇大作戦』の『光る通り魔』だったので、『ガス人間第一号』にしようかと思ったけど、なぜか『ヘル・レイザー』に。ピンヘッドら魔導師やモンスター、少しずつ蘇るフランクの造形が今見ても本当にすばらしくて特撮マインドにあふれている。
 『亡霊怪猫屋敷』。中川信夫作品は順当に選べば『東海道四谷怪談』だとおもうが私はこちらを推す。限られた予算の中、現代劇と時代劇をパートカラーで表現するアイディアの卓抜性もさることながら、撮影、照明、美術、音楽すべてが野心的で乗りに乗ってるんですよね。このチームが後に『東海道四谷怪談』を生み出すのかと、妙に納得してしまう。そんな勢いを感じる作品です。
 『光る眼』。私はあまり評判のよろしくないカーペンターのリメイク版も実は大好きなんですが、選ぶとすればやはりオリジナルです。村中の女が妊娠してしまう怪現象はそれだけで怖いが、場末のバーに集まった男たちが「いっそ全員死産ならいいのに」と語る場面もどうかしている。何が怖いってこれだけいろいろなことが起きるストーリーを70分程度で収めてしまう語りの経済性である。
 『クジョー』。キングに始まりキングに終わるベスト10。傑作も駄作もあるキング原作のホラー映画。『シャイニング』を気に入らなかったキングがどうしてこの低予算動物パニックを気に入ったのかはわからないが、ワンアイディア、ワンシチュエーション(犬だけに)で見せきるルイス・ティーグの手腕は確かに評価されるべきだろう。『クジョー』については前にこのブログに書いたこともあるので詳しくはそちらを見てください。クジョーとはセントバーナード犬の名前。狂犬病に侵され葛藤しながらも凶暴化していくクジョーの演技(!)がすごい。
 さて、今回のエントリを機にホラーというジャンルについていろいろ考えさせられもしました。一見限定的に思えるジャンルのなんと幅広いことか。同じホラーでも恐怖映画と怪奇映画ではちょっと違う。ぎょっとする映画(ショッカー)、ハラハラする映画(サスペンス)、ぞくっとする映画(スリラー)でもまた違う。恐怖の発動装置のちがいもある。それはゾンビであり、吸血鬼であり、人食い鮫であり、幽霊であり、殺人鬼であり、ふつうの人間であり、現象であり・・・つまりホラー映画の肝でもあるわけだが、それによってさらにジャンルが細分化されている気もします。で、その発動装置をどの程度対象化できるか、簡単に言えば「こわい!」と思えるかが実は映画のジャンルを決定しているのではないかと。つまりホラーというジャンルを規定するのは題材やストーリーより見る者ということです。当たり前の話ですが、そんなことをつくづく感じました。私にとって『ジョーズ』や『ゾンビ』はアクション映画、でも『クジョー』と『サンゲリア』はホラーといった具合に同じ題材でも自分の中でホラー的なものとそうでないものの線引きが確かにあるように感じます。見る者の感受性に左右されるからこそ、ホラーはここまでジャンルとして興隆し、多くの人々を引きつけるのではないか。
 あと私が恐怖を感じる条件のひとつに「古い」がある。ここでいう「古い」は簡単に言うと私が生まれる前に制作されたという意味だ。あと実は私は映画館よりテレビで見る映画に恐怖を感じる。これはなぜだかわからないが、たぶん映画館をどこか非日常の空間としてとらえているからだとおもう。
 ホラーという呼称はヒッチコックが『サイコ』を説明するときに初めて使用したという話をどこかで読んだことがある。この話の真偽は調べられなかったが『サイコ』が制作された1960年は確かにホラー映画にとって重要な年といえるのかもしれない。実際このベスト10にも同年制作の作品が2本ある。アメリカで『サイコ』が制作された年、フランスでは『顔のない眼』が、イタリアでは『血塗られた墓標』(マリオ・バーヴァ)が、イギリスでは『血を吸うカメラ』が、韓国では『下女』(キム・ギヨン)が、日本では『地獄』(中川信夫)が作られていた。もう私にとってはそれだけでじゅうぶんホラーという気がするのだが。ぞわぞわぞわ。
 それでは集計お願いします!今回は他の人のラインアップ見るのがいつも以上に楽しみだな。

『血を吸う花は少女の精』(山際永三)

"The Blood-Sucking Flower is Young Girl's Spirit"1973/JP

『光る通り魔』(円谷一

"Gleaming Phantom Killer"1968/JP

除外した2作もせっかくなので番外として載せておく。『血を吸う花は〜』。幼い私に数多くの恐怖体験をもたらしてくれたウルトラシリーズから1作品。『ウルトラマンタロウ』の第11話です。『タロウ』は一般的に子どもに向けた陽性の作品だと見られがちだが、それだけに時折表れる第2期ウルトラシリーズ特有の暴力、死のにおいには戦慄する。捨てられた赤子の死体の血を吸いながら育った植物と自分を捨てられ金持ちに引き取られた少女の痛ましい出会い。赤ん坊の泣き声をあげる蔦怪獣バサラのとぼけたデザインがまたこわい。「ちをすうはなはしょうじょのせい」・・・ラストショットでその意味に気付いて腹の底が冷える。全ウルトラシリーズ通しても最もおそろしく悲しい一編。
 『光る通り魔』。特撮ドラマからもう1作品。『怪奇大作戦』の第8話。私の好きなホラーを語る上で『怪奇大作戦』ははずせない。正直、『怪奇大作戦』だけで10本選びたかったくらいですが。阿蘇の火山口に飛び込み自殺した平凡すぎる男は、生への執着心と同僚への密かな恋慕だけを残し燐光人間へと変貌をとげた…。東宝の変身人間シリーズの趣もある作品ですが、犯罪者の心の闇を克明に描こうとするところに『怪奇大作戦』ならではの味わいがあります。