Devil's Own

cinema, music, book, trash and so on...

さようなら2014年(映画編)

年末もぎりぎりまで仕事をしなくてはならず、結局ふりかえるひまもなかったです。ことしは映画を見た本数もぐっと減って40本くらい。見たい映画を遠くまで見に行く時間が取れなかったのがつらかった。というわけで、評判のいいイーストウッドやリンクレーターの新作見れていません。そういうわけで今回挙げた10本も例年ほどの鍛えられた感じがしなくて、あまり思い入れがないです。ふつうに好きな映画を上から並べていったらこうなりました、という感じで。それではさっそくことしの10本をば。

1.『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』(ジェームズ・ガン

Guardians of the Galaxy/2014/US

4.『少女は自転車にのって』(ハイファ・アル=マンスール

وجدة(Wadjda)/2012/SA-DE

6.『アメイジングスパイダーマン2』(マーク・ウェブ)

The Amazing Spider-Man 2/2013/US

8.『ヌイグルマーZ』(井口昇

Nuigulmar Z/2014/JP

9.『マイティ・ソー/ダーク・ワールド』(アラン・テイラー

Thor:The Dark World/2013/US

10.『アデル、ブルーは熱い色』(アブデラティフ・ケシシュ

La vie d'Adèle – Chapitres 1 et 2/2013/FR

 1.冒頭にはローテンションなことを書いたが、1位は自分の中では文句なしという感じ。2013、2014年はアメコミヒーロー映画の黄金期として今後も記憶されることになるとおもうが『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』はその象徴的な1本であり、マスターピースになりえた。まさかジェームズ・ガンがこんな王道のエンターテインメントをものにする日が来るとは。見終わった瞬間、もっというとタイトルクレジットが出た瞬間に「ああ、これはことしの1位だな」という確信のようなものがあった。そういう瞬間は結局2014年で1度きりだったし、『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』は1本の映画のなかで何度もそうしたカタルシスを味あわせてくれた。主人公が古ぼけたカセットウォークマンのスイッチを入れると、なにやらご機嫌なナンバーが流れ出す。ボーカルが歌いだした瞬間に、画面いっぱいに「銀河の守護者」というタイトルが映し出される。「銀河の守護者」!この大それた、偏差値の低そうなタイトルの下で、これまた偏差値の低そうな、孤独な主人公が踊っている。その滑稽さと愛おしさ。ところがおよそ2時間もすれば、私たちはこの主人公のことをすっかり好きになり、「銀河の守護者」だと信じるようになっている。敗者たちが身を寄せ合い、おずおずと巨大な敵に立ち向かっていく。歌とダンスが彼らの心を励まし、鼓舞し、やがて思いがけないチャンスをもたらす。『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』はアメリカ映画の長く豊かな歴史のなかで、繰り返し描かれてきた物語を、レトロフューチャーなメカのデザイン、脱臼したギャグを織り込んだ会話劇などいくつかの新しい要素を持ち寄り、組み合わせることで新しい傑作に昇華させた。これからもずっと愛していきたい作品です。
 2.某通販サイトでこの映画を貶したレビューの中に「インスタント・ビデオ代¥299を返せーーー!」というのがあった。ジョーダン・ベルフォートに「インスタント・ビデオ代299円にカリカリする。そんな人生終わりにしませんか?」と言われれば、ころっと騙されそうだな。誰もが倫理を踏み外し、欲望をダダ漏れにして生きてみたい。リミッターのはずれたクズどもの人生をスピーディーかつ情報過多に描きながら、スコセッシは地べたにはいつくばり、倫理観に縛られながら生きている良識人たちの人生を意地悪く切り取って見せる。ディカプリオ一世一代の名演もさることながら、純粋と狂気の紙一重を体現するジョナ・ヒル、ゴージャスだけどカネで買えそうなセレブ妻を演じるマーゴット・ロビー、そして先物取引の神髄をベルフォートに説く本物のギャンブラー、マシュー・マコノヒーも素晴らしい。
 3.『2001年宇宙の旅』にも『ライト・スタッフ』にも間に合わなかった私にこのなつかしくて新しいSF映画を見せてくれたクリストファー・ノーランに感謝したい。フィルム撮影とアナログ特撮に強い憧れとこだわりを持つノーランが、宇宙開発が用済みになりトウモロコシ農家に身をやつす元宇宙飛行士を主人公に選んだことは偶然ではあるまい。他人と時間がずれていく相対性理論の感傷的な側面を題材に選んだこともおそらく偶然じゃない。「時代錯誤」がかなしい病だと知っているから、ノーランはこの主人公とこの物語を選んだ。これまでのノーラン映画と同じく、統御されたハイセンスな画面なのに、どの映画よりぬくもりがあり、エモーショナルだ。もともと純粋なのに頭脳派を気取りがちなのが玉に瑕だったノーランが、ついにロゴスよりエロスに重きを置いたことが単純にうれしい。
 4.今年のベストスピーチは、ノーベル平和賞を受けたマララ・ユスフザイの国連演説だとおもうが、イスラム圏に対する無理解を少しでも促してくれた点で『少女は自転車にのって』は私にとって最も影響力のある映画だった。イスラム圏の文化、風俗が知れる「啓蒙映画」としてだけでなく、一人の少女の成長譚としても優れている。何気ないせりふやしぐさの中に、イスラム圏の風習が巧みに織り込まれていて、黒いベールにつつまれたイスラム圏の女性たちは、なるほどこんなふうに笑い、泣き、悩み、楽しんでいるのかと知れた。知らない世界を教えてくれる映画の魅惑を改めて教えてもらった。『少女は自転車にのって』に登場するのは私たちがイメージするテロリストとは関係のない「普通の人々」だ。しかし、イスラム法と国法が密接に結び付くサウジの「普通」は私たちから見るととても奇妙できびしい。世の中には、少女が自転車に乗ることが許されない国がある。そんな国で「女性映画監督」をやるというのはほとんど不可能に思えるし、並々ならぬ意志の力が必要に思える。しかし、アル=マンスールの演出、語り口はあくまでもユーモラスで軽やかだ。この1年見た映画の中でも最も地味で、最もうつくしいクライマックス。どんなにきびしく理不尽な環境でも、努力して何かを達成する喜び、楽しいことを謳歌する喜びは変わらず人の心をうち、その輝きは誰にも奪うことはできない。
 5.デヴィッド・フィンチャーの長編10作目は、誰の目にも明らかな堂々たる集大成的な最高傑作になった。フィンチャー的主題であった男性性やミソジニーとの対決に徹底的に向き合い、突き詰めすぎた結果、誰もが目をそむけたくなる意地悪な映画ができました。フィンチャーらしいケレン(実は真のフィンチャーらしさはそうした表層とは無縁だったりするが)はついに封印し、静謐で統制のとれた画面設計とサスペンスフルな編集、キャストから最良の演技を引き出す鬼演出―つまるところ一流の映画監督としてのスキルを結集した結果、フィンチャーの天才を証明する1本が完成した。『ベンジャミン・バトン』なんて媚びた映画撮らずに、我が道を信じていればよかったのだよ。
 6.つまるところスパイダーマンの魅力とは「ニューヨークで活躍するティーンエイジャーのスーパーヒーロー」である。叔父さんが死にましたとかクモにかまれましたとかは私にとってはどうでもいいので、なくても構わないんですよね。1作目で状況説明を終えて、マーク・ウェブはようやく本来の資質を発揮できた。冒頭、暴走トラックと対決するスパイダーマンの活躍だけで胸が躍り、スパイダーマンスパイダーマンたる魅力をみごとに活写している。この手のジャンル映画で「長い」という、決定的な欠陥を抱えながらもやはり愛してしまうのは、ジェイミー・フォックス演じるエレクトロとデイン・デハーン演じるゴブリン、ふたりのヴィランのドラマも大きい。社会から見捨てられ、置き去りにされた二人の暗く孤独な魂が邂逅し、ついに手をつかみ合ったときの高揚感は筆舌に尽くしがたい。
 7.キャリア最高作といって差し支えないであろうペイン監督の新作は、これまでのペイン作品と同じく今後の人生の中でもっともっと好きになり、味わいと輝きを増していくだろうなという確信がある。だから今のところはこの位置。まだ私個人にとって父親はこんなに弱いものではなく、一人の人間として相対化できるほど私も成熟していない。運転席を代わるのはまだまだ先のほうになりそう。
 8.中川翔子を主演に擁した変身ヒーローもの。乙女心と変態性が雑居する井口昇の作家性が結実した『片腕マシンガール』以来の傑作になった。この作品のBlu-rayのオーディオコメンタリーで中川翔子が「中学生の自分にこの作品のことを教えてあげたい」と語っていた。もうその感想がすべてだとおもう。中学時代に作ったという自前のヌンチャクでゾンビたちをなぎ倒す中川のりりしさ!
 9.『キャプテン・アメリカ』の2作目は掛け値なしの傑作映画だったとおもうが、個人的にはロマンティックコメディとしての要素も強い『ソー』の方を愛してしまうのだな。神話的な世界観とロマンティックコメディの接合が達成できたのは、クリス・ヘムズワースナタリー・ポートマンをはじめ才能あるキャスト陣のアンサンブルに依るところが大きい。すみずみにいたる脇役の輝きはロマコメの要でもある。今回はトリックスター的な役回りを見せる、もう1人の主役ロキ(トム・ヒドルストン)とのブロマンス的なやりとりもますます磨きがかかっておりました。
 10.最後は『アクト・オブ・キリング』、『紙の月』、『Seventh Code』、『アメリカン・ハッスル』と迷いつつ、痛いくらい切実な青春映画の新しいマスターピースを。あらためて驚かされる人間の顔というモチーフの映画的魅惑。随所に挿入される食事、ダンス、そしてセックス。たゆたう水や木の葉を散らす風の官能性。子供たちの目の輝き。人が生き、愛し合う温度を息苦しいくらいに生々しく切り取って見せた。文学や芸術をめぐる議論も心地よく、久しぶりにフランス映画らしいフランス映画の豊穣を感じることができました。
 以上になります。いつもなら15位まで紹介しているけど、ことしはなしで。ワーストは文句なしで『マレフィセント』です。
 旧作ベストは『牡丹燈籠』(山本薩夫/1968)。ことし初DVD化された大映怪奇映画3本の中のひとつ。どれも当時の大映撮影所の驚くべき技術達成度に陶然とするが、わけても本作は傑出していた。ギミックと運動で見せる中川信夫の幽霊表現とは対照的に山本はあくまでも正調ホラーとしてのムードとストーリーで引き込んでいく。恐怖演出におけるワイヤーと照明、効果的な編集も見事。「恐怖映画」としてはもしかしたら中川の映画よりよっぽど現代人に通用するかも。幽霊とわかっていながらお露との逢瀬に引きずられていく主人公の人物造形もいいし、お露を演じる赤座美代子のかれんさも不憫さも胸をうつ。お露の過去を見世物的に描写するシーンもなく、あくまで語りとして処理するのも上品。西村晃小川真由美志村喬など脇役も出色。お露の骸骨をかたわらに抱き、息絶えた新三郎…シェークスピア悲劇のように美しく切ない幕切れ。アントニオ・マルゲリーティの『幽霊屋敷の蛇淫』をほうふつとさせる。
 旧作からもう1本。『ジュデックス』(ジョルジュ・フランジュ/1963)は6月にクライテリオンからリリースされた。『吸血ギャング団』『ファントマ』で知られるルイ・フイヤード監督の連続活劇のリメーク版。サイレント活劇映画へのトリビュートであるため無字幕でも楽しめます。ヒロインは『顔のない眼』のエディット・スコブ。ジュデックスが仮面舞踏会で手品を披露しながら悪党を暗殺するシーンはあまりの鮮やかさにしびれた。
それでは今年も残すところあとわずかですが、みなさんよいお年を!!