Devil's Own

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『回路』(黒沢清)

"Pulse"2001/JP

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 国内盤が出る気配がないので、英アロービデオから2年前にリリースされたBlu-rayを取り寄せた。くすんだ画面の雰囲気は残しつつ、不吉な暗闇や心細いロングショットなどがつぶれることなく再現されていて、脂の乗り切った恐怖演出と画面構成をすみずみまで堪能できます。最高じゃあ。

 私は一連の「Jホラー」作品群のなかでも『回路』の特に前半部がいちばん怖いと思っていまして。怖すぎるからめったに見返すこともできないのだけど、久しぶりに見たらやはり怖かった。登場人物に「幽霊」が迫ってくる瞬間というのが何回かある。『リング』のクライマックスの発展形といえるのかもしれないけれど、本家が貞子のアイドル化によって当初のインパクトを低減してしまったのに対し(それでも怖いけど)、こちらはいまだに衝撃的だ。恐怖で直視できない、それでいて目を離すことができない。そんな鮮烈な呪縛力。

 インターネットが「異界」に通じてしまったら―という発想じたいは、ネット社会に漠然とした不安を抱けた時代にしか通じないハッタリだったとおもうのだけど、今の感覚でみると、かえって怖いんですよね。電話回線特有の通信音や解像度の粗い画面、通信速度が遅いからこそのカクカクとした動き…インターネットにまだかろうじて残っていた「アナログ」の残滓が本作の恐怖を支えているように思います。

 それでも黒沢の恐怖演出の根本が、私たちの日常と地続きのなにげない空間やアイテムを異化してみせる手つきであることは、今も昔も変わらないなあ…と。コップに注がれたサイダーが、ゲームセンターの電子音楽が、パソコンの周りで絡み合ったコードが、どうしてこんなにもまがまがしさをまとっているのか。

 もう17年も前の映画ですが、麻生久美子小雪もあまり変わらないですね。f:id:DieSixx:20180822194005p:plain

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