Devil's Own

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『座頭市物語』(三隅研次)、『続・座頭市物語』(森一生)、『新・座頭市物語』(田中徳三)

"The Tale of Zatoichi"1962/JP

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 Criterion社が数年前にリリースした『座頭市』シリーズの25枚組Blu-rayボックスが、130ドルまで値下がりしていたので買ってしまった。映画シリーズは一通り見てはいるのだけれど、今回見返してみると見事に忘れているという…。人間の記憶力ってだめですよねえ。備忘録代わりに簡単に記しておこうと思う。

 とはいえ記念すべき1作目はさすがに覚えていました。江戸時代に実際にあった抗争劇を下敷きにしています。天知茂演じる肺病みの剣客、平手造酒のニヒルな存在感と座頭市のどこか牧歌的なたたずまいの対比がいい。勝新太郎座頭市は作品を重ねるごとにどんどん内面がそぎ落とされていくが、まだ人間くさい描写が残されている。ため池で釣りをするふたりがはぐくむ静かな友情。欲と俗にまみれたやくざ社会、奇妙な友情で結ばれた理解者どうしが、斬り合わなくてはならないクライマックスの悲哀と高揚。市に斬られ、恍惚とした表情でしなだれかかる平手の表情は、ほとんど女性である。

 ヒロインおたねを演じる万里昌代も忘れがたい。新東宝出身のセクシーさを残しつつ、市に想いを寄せる可憐な女性像を演じている。直後には三隅の傑作『斬る』で全裸で斬り捨てられる鮮烈な役を演じるが、特撮ファンにとっては、『ウルトラマンタロウ』の異色のホラー回、第11話「血を吸う花は少女の精」で蔦怪獣バサラに殺される母親役を覚えている人も多いとおもう。

 月夜に市と歩きながら会話する場面の匂い立つエロスはどうだろう。「このほくろ、子どもがたくさん生まれるって言われてるのよ」と市にささやくおたね。エロい。エロすぎる。枯れ木と月を配置したうつくしい構図が、画面全体の格調を保っている。

 構図とカメラワークがビシビシと決まっている。撮影は三隅が好んで組んでいた名カメラマン、牧浦地志。

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"The Tale of Zatoichi Continues"1962/JP

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1作目のヒットを受け、わずか半年後に封切られた続編。今更書くようなこともないけれど、スタジオシステムの体力に驚嘆せずにはおれない。監督は勝のダークヒーロー路線の嚆矢となった『不知火検校』(1961)の森一生

 前作から1年後、平手の墓参りのため再び笹川を訪れた市に、さまざまな敵が襲い掛かるというストーリー。このうち黒田一家は、あんま療治のときに自分たちの殿様が正気でないのを市に知られてしまい、口封じに命を狙うというちょっと苦しい動機づけ。前作で市の加勢を受けた飯岡一派も今回は敵に回り、さらに市の実兄である隻腕の浪人、与四郎が絡む。シナリオ面ではさすがに急ごしらえの印象はいなめない。

 見どころは市の兄、与四郎を、実際に勝の兄である若山富三郎が演じている点。若山は東映から大映に移籍したばかりで、城健三朗名義になっている。与四郎は、市が愛した女を横取りし、片腕を切り落とされたという因縁がある。市は場末の飲み屋で、かつて惚れた女とよく似たお節(水谷良重)と出会い、そこに与四郎も居合わせるというのは、ご都合主義もいいところなのだが、そこは因縁というもの。これでいいのである。二人はお節をめぐって再びさや当てをするが、お節は市を選ぶ。一夜を明かしたあと、お節が市に言う「自分の身体じゃないみたい」というせりふの生々しさ。船で逃げる市を見送る場面の豊かなメロドラマ性にもうたれる。

 前作のヒロイン、おたね(万里昌代)も登場。大工との結婚が決まっているが、市の帰還を知り胸をときめかせる様子がかわいい。黒田一家との対決に向かう市の笠を「私が持っています」と握りしめるいじらしさ!その戦いの後、市が自分の結婚を知り、喜んでいるのを聞くと、そっと笠を置いて立ち去る。

 1作目よりもさらに感傷的なつくりになっているのだが、それだけにエンディングの切れ味が際立っている。互いを認め合った平手と愛憎入り交じる与四郎を殺した市が、すべての元凶である飯岡助五郎の前に立ち、「てめえも死ね!」と叫んで叩き斬る。

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"New Tale of Zatoichi"1963/JP

f:id:DieSixx:20181102155004p:plainシリーズ初のカラーとなった3作目。大映ならではの黒味が際立った重厚なルックが存分に味わえる。タイトルに「新」と付くものの、前作で市に斬られた半兵衛の弟・島吉が市を付け狙うなど多少は「続編」の要素を残してもいる。監督には大映のプログラムピクチャーを数多く手がけた田中徳三が初登板。撮影は再び牧浦が手掛けている。

 今回の敵役は、市に剣術を教えた師匠の伴野弥十郎。『次郎長三国志』シリーズの大政役などでおなじみの河津清三郎が演じているが、どちらも居合斬りを得意とするので決闘シーン自体は短く、地味である。一瞬刃を交えたあと、市に向かって「抜け!」と叫んで倒れる。なんと自分が斬られたことにも気づかずに死んでいくのだ。

 本作はアクションより、弥十郎の妹、弥生(坪内ミキ子)と市の悲恋に比重が置かれている。弥生は演じる坪内そのものの育ちの良さもあいまって、おたねやお節とは一線を画す処女性をまとっている。そのため、おたねに言い寄られてもかわしていたのに、弥生の求愛には応える市が、ちょっとだけスケベなやつに見えなくもない。もともと弥生には足が不自由という構想もあったようだが。

 弥生と身を固めるため、島吉の前に膝をついて、見逃してほしいと懇願する市。隣で「私も斬られます」と身を投げうつ弥生。さいころで決めようと提案し、結局は賽の目をごまかしてまで市を見逃すことにする島吉。三者三様の思いが交錯する人情劇が味わい深い。

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