Devil's Own

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『座頭市あばれ凧』(池広一夫)、『座頭市血笑旅』(三隅研次)

座頭市あばれ凧』(池広一夫

"Zatoichi's Flashing Sword"1964/JP

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 7作目。やくざの清六に鉄砲で撃たれ川に転落した市は、花火師の久兵衛左卜全らに助けられ、恩に報いるため津向の文吉(香川良介)の宿を訪ね、わらじを脱ぐ。文吉は富士川の川渡しを良心的に取り仕切っていたが、事業の横取りをもくろむ対岸の竹屋の安五郎(遠藤辰夫)の執拗ないやがらせに悩んでいた。

 筋書きがよりストレートな勧善懲悪ものに。遠藤辰夫がいかにもせこく、卑怯な小悪党なため迫力に欠けるが、吃音という設定のため、そこはかとないペーソスを感じさせもする。他の時代劇ではあまり見たことのない肩車による川渡しの描写が面白く、中盤の水中戦も見もの。クライマックスは、花火が咲き乱れる夜空の下での戦いという設定だが、花火と地上の乱闘を同時に映すことは技術的に難しかったのか、色とりどりの光に照らされる夜道での戦いを俯瞰ショットで撮影する手法がとられている。暗闇に紛れて、一人、また一人と敵を殺していく市の、まるで幽霊のような描写はイーストウッドの『ペイルライダー』(1985)のクライマックスを思わせる。

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座頭市血笑旅』(三隅研次

"Fight, Zatoichi, Fight"1964/JP

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市は自分の身代わりに殺されてしまった母親に代わり、赤ん坊を宮木村の父親のもとにまで届けることになった。

 小池一夫が「子連れ狼」シリーズの着想を得たされる異色作。監督は、のちに『子連れ狼』シリーズも手掛ける三隅が再登板している。赤ん坊に小便をひっかけられたり、案山子から服をはぎ取りおむつにしたり、襲い掛かってくる悪党を「しーっ」とたしなめたり、遊女に赤ん坊の世話を任せてゆっくり休もうとするも結局心配で起きていたり、自分の乳首を吸わせてくすぐったがったりと、キュートでコミカルな描写の一方、ひょんなことから知り合ったスリのお香(高千穂ひずる)と疑似家族的な関係はとにかく泣かせる。不器用で孤独な魂が身を寄せ合い、やがてかけがえのない絆で結ばれていく3人を上官たっぷりに演出している。

 お香のキャラクターも魅力的。部屋に入る前、市が赤ん坊に子守歌を歌っているのを聞いてしまい、わざと足音を立ててから入りなおす繊細な描写。市に別れを告げられ、目に涙をためながら引き下がる表情のクローズアップがうつくしさ。シリーズ屈指のヒロイン像ではないだろうか。

 ようやくたどり着いた赤ん坊の父親はクズでしたという展開もやるせない。クライマックスでは、火槍で襲ってくる悪党たちと衣装を燃やしながら闘うという驚愕のアクションを見せている。

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