Devil's Own

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『ボヘミアン・ラプソディー』(ブライアン・シンガー)

"Bohemian Rhapsody"2018/GB-US

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難産の末にようやく完成した『ボヘミアン・ラプソディー』。はじめに制作のうわさを聞いたのがずいぶん昔のような気がするので、すっかり忘れていたよ。評判通りの傑作で、私が今更どうこう書くこともないのだけれど、忘れないように雑感を記しておきます。

 とにかく似てた。クライマックスのライヴエイドはもちろん、「トップ・オブ・ザ・ポップス」での「キラー・クイーン」演奏とか「自由への旅立ち」のミュージックビデオとか、結構誰でも知っているような映像がどんどん登場するのに、全くコスプレ感やパロディ感がないというか。これってたぶん、クイーンというバンドじたいが持っていた「劇団」的なポテンシャルによるところにも大きいと思うんですよね。一人ひとりが役者として、クイーンのメンバーを演じていたというか。

 4人の中で特にブライアン・メイが半端ない。本人ですよね、って思った。それゆえにときどき「仰天ニュース」か何かで名曲誕生秘話の再現Vを見せられているような気持ちになったのも事実だけど、すべてがあのクライマックスのための布石なのかと思うと納得できた。誰もが知っている映像なのに、そこに至るドラマやエモーションが丁寧に積み上げられているため、まったく違った感動を呼び起こすという驚き。感服しました。「ボヘミアン・ラプソディー」も、「ハマー・トゥ・フォール」も、「伝説のチャンピオン」も、物語をへたあとでは、切実なメッセージをもって胸に迫ってくる。

 レコード会社の幹部に「ほかのバンドとの違いは?」って聞かれたとき、フレディが「部屋の片隅で、膝を抱えている。音楽が僕たちの居場所で、バンドが家族だ」(大意)みたいなことを言うんですよね。私にとってのロックンロールはつねにそういうものだったし、これからも膝を抱えた者たちや居場所のないボヘミアンたちのために鳴り続けてほしいと思う。「気高きこの御国の御霊」とか「日出づる国の御名の下に」とか、そんな血統や国粋で連帯を促すような音楽は、私には必要ない。No Time for Losers coz We are the Champions!!!!

 フレディのエイズ感染が発覚するのが、実際はライブエイドの後だったという点が批判されているらしいけど、いやいいじゃないの!ライブエイド前に、バンドメンバーで抱き合ってフレディの病気を哀しみ、いたわり、励まし合うあの姿が、クイーンのメンバーが願った過去だったんだよ!それも含めてね、もう…。

 ちなみに私のお気に入りのクイーンのアルバムを3枚選ぶなら、メイがA面、マーキュリーがB面を担当しバンドの二面性が味わえるセカンド「Ⅱ」、その二面性がバランスよく配合され高度に結実した「ジャズ」、それからダンスミュージックに近接した「ホット・スペース」ですかね。意外と「オペラ座の夜」は聞かない。曲では「地獄へ道連れ」、「クール・キャット」、「輝ける日々」が好きですが、やはり「ボヘミアン・ラプソディー」は別格でしょう。映画は、この楽曲が革新性やメロディーだけでなく、ハートの面でも優れていて、だからこそ多くの人々に支持されたという事実をあらためて教えてくれました。これからも長く劇場でかかってほしい傑作でした。Don't Stop Me Now!!