Devil's Own

cinema, music, book, trash and so on...

『めぞん一刻』(澤井信一郎)

1986
 音無響子役に石原真理子五代裕作役に石黒賢という一体誰に向けて作られているのかわからないキャスティングは今見ても怪異だが、公開当時も原作ファンの受けはよくなかったであろうことも想像に難くない。アマゾンのレビューも酷評だらけである。そうした世論は無視してよろしい。一刻館自体がある種の非日常空間であるかのようでもあり、極端に戯画化された俳優たちの演技(伊武雅刀怪演!)もあいまってほとんど不条理コメディとすら言えそうだ。明朗なラブコメ要素は一切削ぎ落とされているが、高橋留美子漫画の登場人物なんて現実世界では狂人でしかないだろうからこれはこれで正しい解釈な気もする。不意に画面を横切ってくるからくり人形、中盤演じられるミュージカルシーンなどの唐突な演出も好みが分かれるところだろう。田中陽造の資質によるところはかなり大きいとおもうのだが、後半に進むにつれて独特のタナトスが色濃い影を落とす。こうしたタナトスを端的に象徴しているのが映画オリジナルのキャラクターである男(田中邦衛)と女(萬田久子)だろうか。このふたりが物語を原作世界から大きく離陸させていく。70年代の日本映画を見ているかのような錯覚にとらわれてしまうのだが、それでも見た後不思議と爽快な後味を残す。いびつな作品だとはおもうが、澤井信一郎の才気が鈍っているとはまったく思わない。原作にさして思い入れがない私のような人間ならかなり楽しめるだろうし、原作ダイジェストが量産される現状に比べればいくぶん救いのある映画だともおもう。だいたい私は音無響子のような女性が大嫌いなのだのだよ。この映画は音無響子をいたずらに仰ぎ見ず、つねにドライな視線が貫かれており(なんつっても石原真理子ですからね)女性映画としても、一定の水準に達しているとおもう。

めぞん一刻 [DVD]

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