Devil's Own

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『アンストッパブル』(トニー・スコット)

"Unstoppable"2010/アメリカ

ここ数年の急激に高まったトニー・スコットの評価については慎重だった。ここではちょっと厳しい見解を書いたこともあったとおもう。そこへきて今回の『アンストッパブル』である。結論からはっきり申し上げますよ。ごめんね、トニーなめてました。誰が見ても文句なしに面白い、一級の娯楽映画である。
 複雑な時間軸操作もまどろっこしい心理劇もない。「止められない」というストレートすぎるタイトルが示すとおり、時間、空間、人物、物体すべてがひたすら直線的に進んでいく。この直線運動が、トニー・スコット的な語りの経済と相性がよかったのではないか。例のごとくケレン味あふれる空撮やズームイン、ニュース映像を乱暴に交差させつつも、ここでは彼のトレードマークともいうべき躁病的なカメラワークと編集はかなり抑えられたといえる。ハッタリやコケ脅しは必要ない。市街を駆け抜ける列車の直線運動だけで、映画は十分ドライブするのだった。それにしてもこの映画が体現する高純度の稚気をどう説明すればいいのか。暴走する無人列車をふたりの男が食い止める、ただそれだけの話である。暴走列車のプロット自体、ほとんど映画の誕生から存在していたといっていい。グリフィスにもルノワールにも似たような映画があるくらいだ。列車を食い止めるベテランの機関士(デンゼル・ワシントン)と新米の車掌(クリス・パイン)は、映画を通してバディとしての結束を強めていくが展開自体に新しさはない。ふたりはそれぞれ家庭環境や日常の仕事にささいな問題を抱えているが、こうしたキャラクタードラマもどこかで見たような話である。さすがにフーターズが出てきたのにはちょっと驚いたが、ここには新しいものは何ひとつとしてないのだ。事件の最中だというのにゴルフに興じる無能な上層部、列車をとめようと奔走するふたりをテレビから応援する人々。ほとんど「ベタ」とすらといえる幾多のクリシェを積み重ねながら、トニー・スコットは見るものの心を確実にとらえていく。正直言って結末はわかりきっているのだ。にも関わらず、どうしてこんなに興奮してしまうのか。正直私にはわからない。予定調和というのとはちょっと違っているのだ。映画の歴史も他の文化史に比べれば浅い方だとおもうが、それでも100年近くは経っているわけで、未だに暴走列車がどどーん、がしゃーんみたいな映画が面白いというのは不思議な気もするし、当たり前という気もする。あの貨物列車がまた超かっこいいんだよね。無骨で重量感たっぷりでごごごごごーって。あと、相変わらずトニー・スコットの映画はパトカーが無意味にクラッシュしますね。なにか恨みでもあるのだろうか。