Devil's Own

cinema, music, book, trash and so on...

『ガール』(深川栄洋)

"Girl"2012/JP

あからさまに「和製SATC」をねらった外装に不安を感じつつも奥田英朗の原作小説は気に入っていたので見てきた。じっさい「SATC」っぽい場面はほとんどなく、ウェルメイドな群像劇としてよくまとまっていたとおもう。劇場に男性は私だけだったが、男の子が見たほうが楽しめるんじゃないでしょうか。ふだん私がよく読んでいる女性ブロガーのみなさんがどんな感想を持つのかにもちょっと興味があります。メーンキャストの麻生久美子吉瀬美智子板谷友香、加藤ローサがそれぞれキュートに撮られているのもよかった…あれ、メーンキャストは加藤ローサじゃなく香里奈だっけ。香里奈は何がしたいのかよくわかんなかった(一応主役だそうです)。吉瀬さん苦手だったけどめちゃくちゃ好きになりました。
 30歳を目前にいつまでも「女子」から離れられない香里奈、年下の新入社員に不覚にも胸をときめかせてしまう吉瀬、あからさまに女性差別的な年上の男性部下と対立する麻生、頑張りが空回り気味のシングルマザー板谷。4人のエピソードはもともと独立した短編小説であり、映画の中でも基本的には互いに干渉することなく進んでいく。そのため各エピソードが有機的につながりドラマ全体にうねりを生み出すような長編映画ならではカタルシスには欠けていたようにおもいます。全体を停滞させずに各エピソードを処理していく手際の良さは買いたいのですがもう一工夫ほしかった気もする。
 現代社会において、女性の自由は一見保証されているように見える。仕事ひとすじに生きても、子どもを産まなくても、離婚してひとりで子育てしても、誰も責めたり咎めたりすることはないはずだ。にもかかわらず、彼女たちを取り巻く環境は相変わらず窮屈で息苦しい。「自由なんて不自由なだけ」という麻生のせりふは生々しい諦念を帯びる。人生はおびただしい選択の連続だ。自由を得ることとは、こうした選択のすべてに責任を持つことでもある。人は自分が選ばなかった(選ぶことができなかった)人生を振り返らずにはいられない。こうした問題は私にも理解できるが、やはり女性のほうが切実だとはおもう。女性には一度決めてしまうと取り返しが難しい選択も多い。映画の中で登場人物はそれぞれ壁にぶつかり自らの選択の正当性を揺さぶられる。そのもろさ。そのやり場のなさ。私にはちょっと耐えられそうにないなとおもいました。
 とどのつまり『ガール』は「キャリアウーマンの自己実現」をテーマにした物語だが、こうした主題はありきたりな承認欲求とすり替えられてしまうことも多い。承認それじたいを目的化せずにおのおのが自分の生き方にきちんと落とし前をつけているところには好感が持てました(香里奈以外)。
 さっきから香里奈さんばかりいじめてるようですが、本当によくわかんないんですよね。この作品がいちばん力を注いでいるのが彼女の物語だということはよくわかるが個人的には一番うまくいっていないとおもう。先述した承認欲求の陥穽にはまってるのではないか。広告代理店勤務でおしゃれが大好き、ことあるごとに「女子は、女子は」と繰り返す香里奈のキャラクターは相当に疎ましい。しかし、私は彼女のキャラクターを問題にしているわけではない(あんなに嫌な女でもしっかりと感動させてくれる傑作『ヤング≒アダルト』を見よ!)。それどころか、この映画には「女子」に対する厳しい視点もしっかりと用意されていて、たとえば加藤ローサが「いつまでも自分のこと女子とか言って、未熟なままでいいって考え方、どうかとおもいます」と痛烈な批判を浴びせたりもする。この場面すごくよかった。「女子」という表現に甘えている女性と同じくらい、居心地の悪さを感じている女性もたくさんいるとおもうんですよね。いずれにせよ、映画の中で香里奈が体現する「女子」は必ずしも肯定はされていない。彼女のライフスタイルを「(笑)」付で蔑む世の中の冷たい視線がしっかり示されているのだ。問題はこのような逆境に対し、香里奈がどのような形で自己実現を成し遂げていくかという点であり物語も当然その方向へ進んでいくものと思っていたのだが・・・。なぜ加藤ローサの話にすり替わってしまうのか。加藤ローサの話だったのかと。結局、香里奈だけは自分の生き方の責任を他人に委託してしまったのではないか。ちなみに香里奈のぼんくらな彼氏を向井理が演じている。こと映画に関してはあきらかに役柄に恵まれていない向井君の良さがめずらしく生かされているとおもいました。なにしろ定食屋で「寄生獣」読んでるんですよ。そのわりにちゃんとロマンティック演出もしてくれるし、ほんといい彼氏。どうしてこのふたりが付き合ってるんだろう…そこも納得行かなかったような。結局、文句言ってしまったけど、総じて楽しめた。吉瀬さん最高!