Devil's Own

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さようなら2012(映画編)

 今年の劇場観賞本数はちょうど延べ100本、再見やリバイバル上映を差し引いて93本でした。学生のころ以来、久々に年間100本を達成できた(対象作品はこんな感じ)。今年も良作が多くて本当に悩みました。ではことしの10本を。

1.『桐島、部活やめるってよ』(吉田大八)

"The Kirishima Thing"2012/JP

2.『サニー 永遠の仲間たち』(カン・ヒョンチョル)

"써니(Sunny)"2011/KR

3.『ロボット』(シャンカール)

"Enthiran(Robot)"2010/IN

4.『ミッドナイト・イン・パリ』(ウディ・アレン

"Midnight in Paris"2011/FR-ES

5.『フランケンウィニー』(ティム・バートン

"Frankenweenie"2012/US

7.『プロメテウス』(リドリー・スコット

"Prometheus"2012/US

8.『007 スカイフォール』(サム・メンデス

"Skyfall"2012/UK-US

9.『ドラゴン・タトゥーの女』(デヴィッド・フィンチャー

"The Girl with the Dragon Tattoo"2011/US

10.『アウトレイジ ビヨンド』(北野武

"Outrage Beyond"2012/JP

 このブログを始めてから日本映画が1位というのはおそらく初めてだとおもうが、今年は日本映画も積極的に見に行くことが多かった。がっかりする映画もそれなりにあったが総じてレベルが高かったといえる。昨年、一昨年と「日本映画にまるで興味が湧かない」と書いていたことを考えれば起死回生の年だったのではないか。日本映画の突然変異的な盛り上がりに311も関係しているような気もするのだがどうだろうか。
 『桐島、部活やめるってよ』は日本映画史を塗り替えた作品といっていいだろう。公開時に書いた「日本の『ブレックファスト・クラブ』になる」という確信は今も変わらない。私は、本作が「スクールヒエラルキーを扱った学校劇だから」という理由だけでそういっているわけではない。「学校」という舞台を扱った物語は今後も生み出されるとおもうが、おそらく「桐島以前/以後」というタームで語られることになるだろう。そういう決定的な新基準を生み出してしまったという意味でいっているのである。実際はその先駆けに武富健治の漫画『鈴木先生』があるのだが、それでも映画『桐島』が成し遂げた功績は大きい。…とここまで書いておいておきながら、『桐島』の映画史的なポジションなどは実はどうでもいいともおもってもいる。私はこの映画を、この映画に登場する人々を愛してしまっている。この映画の中にいる、かつての私、かつて私が出会った人々、出会ってわかりあえた人々、ついにわかりあえなかった人々、そんな人々のすべてがいとおしくて仕方がないのだ。
 『サニー』も同じく映画内の登場人物に強い思い入れをもってしまう類の映画。サニーの7人はもちろん、主人公ナミの家族(特におばあちゃん)、敵対するヘタレ不良グループ、シンナー中毒のサンミなどすべての登場人物がいとおしい。この結末が非現実的で鼻に付くという批判をたまに見かけますが笑止!!金は所詮、金ですから。サニー最後の夜、ハ・チュナがスジの家の前でメンバーに語る言葉…その約束のすべてを果たす瞬間なのだ。そこを読み取ってくださいよ。私が『サニー』に最も感心したのは、サニーというグループが、ハ・チュナがという人が、ついに救うことのできなかったサンミ(シンナー常習者)の存在である。人と人との分かちがたい絆、そのともしびが強ければ強いほどそこからはじかれた人々に落ちる影は濃くなっていくだろう。その暗部にまで目を向けたところに現実を凌駕するようなファンタジーの強度があるとおもう。
 3位はインド映画『ロボット』。Blu-rayも買って繰り返し見ましたね。この映画との出会いもけっこう私の中では大きかった。娯楽映画における激辛カレー。ほかの映画もお茶漬けのようにさっぱりしたものになってしまうので要注意ではある。1〜3位は笑ったり泣いたり、感情の振れ幅の大きな作品が多かった。『ミッドナイト・イン・パリ』もまた。わかりあえなくても、すれちがいばかりだったとしても、新たな出会いに胸を躍らせてしまう私たちの愚かさ。その祝福に満ちた雨と夜景とシドニー・ベシエのサックス!上位4本はほぼ同率1位という感じだが、アメリカ映画は1本も入らなかった。
 ティム・バートンの創作の原点ともよべる短編をセルフリメイクした『フランケンウィニー』は、ここ数年の作品の中では群を抜いてパーソナルな、だからこそファンにとって待ちに待ったともいうべき傑作に仕上がった。ストップモーションという表現技法も含めてほとんどフェティッシュともいえる作品の構成要素が娯楽作品として見事に結実したとおもう。オリジナルから長編化したにも関わらず、水増し感はなくユニバーサルモンスター映画へのオマージュあふれるキャラクターや主人公の細かな心の動きを肉付けすることで物語の深みを増した。ラストのヴィクターのせりふはオリジナルにはなかったが、バートンの作家的成熟と人間的成長が感じられる。不安定な現代をを生きる内気でナイーブな少年少女にとってはきっと宝物のような作品になるだろう。
 『小悪魔はなぜモテる?!』はホーソーンの『緋文字』を下敷きにジョン・ヒューズ的な学園映画を物語論のレベルにまで昇華させた大傑作。DVDスルー作品だが、発売当時はあちこちで話題になったし、今年のベストに上げている人も多いようだ。劇場で見ていたらもっと上位だったかも。次作にあたる『ステイ・フレンズ』(昨年8位)でもロマンティック・コメディの伝統を踏まえつつ、フレッシュな感覚でジャンルを蘇生してみせたウィル・グラック。彼の作品をリアルタイムで終えることを幸福におもう。
 『プロメテウス』はいい意味で今年一番驚きだった。誤解を恐れずに言えば、『レジェンド』から『ロビン・フッド』までのキャリアすべてを「空白」に押しやってしまうくらいすごかった。強くて不気味なクリーチャー、精緻で機能美にあふれたメカニック…まずはぼんくらマインドにあふれた“中学生”リドリーの帰還を喜ぼう。原点回帰といってしまえば『フランケンウィニー』と同じかもしれないが、リドリーのそれはあまりに果てしない一足飛びである。これを「前進」と取るか「後退」と取るのか。私は迷うことなく「前進」と断言したい。『プロメテウス』を見た後だと不安だった『ブレードランナー』の続編にもがぜん期待が高まった。
 8、9位にはダニエル・クレイグの二作。今年の映画はダニエル・クレイグに始まりダニエル・クレイグに終わったという印象。デヴィッド・フィンチャーサム・メンデス、どちらもそれぞれの資質を生かしながら俳優の魅力を引き出してくれた。『セブン』を実はそこまで評価していない私だが、『ドラゴン・タトゥー』は完全にやられた。もはや奇をてらったアート志向はない(本当はあるけど巧みに隠されている)。黒くしまったルックにしびれる。『スカイフォール』はサム・メンデスの研ぎ澄まされた画面構成にただただ陶然ほかない1作。「うっとり」という表現がこんなに似合う作品はない。
 10位は迷いに迷って『アウトレイジ ビヨンド』が滑り込み。キャリア初の続編映画で、前作の肯定派と否定派双方を黙らせてしまう問答無用の傑作を仕上げて見せた。今年は日本映画が充実していたと書いたが、年始に黒沢清がテレビドラマ『贖罪』を放映、下半期は井筒と北野が新作を上梓した、というだけでも充実ぶりがうかがえるとおもう。振り返れば振り返るほど贅沢な年だったな。久しぶりに日本人でよかったとおもったよ。
 もったいないので11〜15位の5作も紹介。

11.『DOCUMENTARY OF AKB48 Show must go on 少女たちは傷つきながら、夢を見る』(高橋栄樹

"Documentary of AKB48(Show must go on)"2012/JP

12.『幸せへのキセキ』(キャメロン・クロウ

"We Bought a Zoo"2012/US

13.『私が、生きる肌』(ペドロ・アルモドバル

"La Piel que Hanito(The Skin I Live in)"2011/ES

14.『ドライヴ』(ニコラス・ウィンディング・レフン

"Drive"2011/US

 もったいないので11〜15位も紹介。この枠もけっこう重要なんですよね。私は自意識が強いので10本選ぶとどうしても「メッセージ性」が強まってしまうようだ。10本にさまざまな要素を代表させようとしてしまう。アメリカ映画に偏り過ぎないようにとか、アニメ映画は入れすぎないようにとか、無意識にそういう抑制が働いているような気がする。なのでことしはランクインに悩んだ作品にも一応触れておきたい。
 『アメイジングスパイダーマン』『ダークナイト ライジング』『アベンジャーズ』などアメコミイヤーだった2012年だが、私に必要なヒーロー像を提示してくれたのは『ウルトラマンサーガ』、そして『Documentary of AKB48』だったとおもう。まさか自分がAKB48ドキュメンタリー映画を見て、けっこう長い感想を書いてしまうくらい感銘を受けてしまうとは夢にもおもわなかった。欠点も多い作品だが、2012年の日本の時代そのものを刻みつけた記録として。『幸せへのキセキ』も私にとっては宝物のような1作。思い入れについてはブログにも書いたのでここでは省略する。『私が、生きる肌』は『バッド・ルーテナント』(2010)、『スプライス』(2011)につづく今年の怪作枠としてぎりぎりまで10位に残っていた作品。アルモドバルの無駄に格調高い語り口についだまされそうになるけど、本当にただの変態映画。『顔のない眼』的なメディカルホラーかと思わせつつ、「虎」の登場あたりから物語は急展開。アルモドバルにしか描きえない妄執の物語へと変容していく。とはいえどこか身につまされる恋愛論になっているからすごい。楳図かずおの作品の読後感にも似た恐怖と切なさと感動が一気に押し寄せてくる不思議な気持ちにさせてくれる。この作品についてはいつかじっくり書きたいです。『ドライヴ』は年末に『スカイフォール』が来なければ10位以内に入っていただろう。何度目かの3Dブームは去りつつあるが『ヒューゴ』はその最後の傑作となるかも。
 ベストに入れるくらい気に入った作品でありながら結局このブログに感想を書けずに終わった作品がけっこう多かった。ツイッターで散漫につぶやいてなんとなくスッキリしてしまったり、いろいろな人の感想をネットで読むうちに私がわざわざ書く必要はないなと書くのをやめてしまったこともけっこうある。いずれにしても今年もブログやツイッターで映画に関するいろいろな人の意見や考え方に触れることが出来て刺激的だったし、おかげで思わぬ映画に出会えることもあった。この場を借りて「今年もお世話になりました」。
旧作ベストは日活100周年でDVD化された石井輝男『怪談昇り竜』。当時のトレンドだった女侠客ものと怪談ものを無理やりに接合した上、『奇形人間』に通じる石井輝男のエログロ趣味で味付け。異形にしてエネルギッシュな傑作に仕上がっている。今年1番見た映画も日活がらみで『幕末太陽傳』。デジタルリマスター版の劇場公開ももちろん見たし、ブルーレイソフトも買ったし、BS、CSで放映されればそのたびに見てたし、本当に数え切れないくらい見た。「ことし『幕末太陽傳』めっちゃ見た」って人けっこう多いんじゃないかなあ。と、いうわけで今年も更新は少なめでしたが、来年もよろしく!首がとれても動いてみせまさあ!