素晴らしきロックバンド、WINOについて
- アーティスト: WINO,吉村潤,久永直行,外川慎一郎,黒沼征孝
- 出版社/メーカー: ビクターエンタテインメント
- 発売日: 2003/03/19
- メディア: CD
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このブログも開設してから10年以上がたちますが、読者の方にお会いすると「『デビル』好きなんですか」と聞かれることが、まれにある。ハリソン・フォードとブラッド・ピット共演のサスペンス映画『デビル』の原題が"The Devil's Own"なのだ。確かに『デビル』は好きな映画なのだけど、このブログのタイトル自体は、1995~2002年に活動した日本の5人組ロックバンド、Wino(ワイノー)の楽曲「Devil's Own」が元ネタです。「すごくつらい」といった意味のイディオムらしいのですが、ブログを始めた当初は単純に語感のよさと曲のかっこよさだけで直感的に選んだのだとおもう。
なにしろ当時の私はワイノを聞きまくっていた。まるで記憶装置のように、聞いていたころの気分がありありと思い出させてくれる音楽が、誰にでもあるとおもうけれど、私の場合、ワイノーを聞くと、合宿免許で行った山形の抜けるような青空とか、恋人に会うために乗っていた小田急線の車窓とか、せまくて暗いサークル室のにおいとか、そんなものが胸に湧き上がってくる 。今でも私の心の中で特別な位置を占めているバンドだ。
ワイノーがメジャーデビューしたのは1998年。くるり、スーパーカー、ナンバーガール、プリ・スクールなど、洋楽文化を日本ならではの感性で咀嚼し、オリジナルな音楽へと昇華する新たな才能が、つぎつぎと登場した黄金時代だ。雑誌「スヌーザー」の熱心な読者なら「98年の世代」という言葉を聞いた人も多いとおもう。なかでもワイノーはシャーラタンズ、オアシス、ジョイ・ディヴィジョンといった、いわゆるマンチェスター勢の英国バンドをほうふつとさせるグルーヴとメロディが特徴のバンドだった。彼らは、同世代のバンドより、「UK色」が強かったとおもうし、逆にいうとその呪縛に最後まで悩み続けたバンドだったとも言える。ただ、フロントマンの吉村潤によるみずみずしいメロディとしなやかな歌声、外の風が冷たくて、すべてが期待外れなときにも寄り添い、勇気づけてくれるリリックは、唯一無二であり、彼らに影響を与えた偉大なUKバンドたちに勝るとも劣らない。だから、私は敬意と愛着を込めて彼らを「日本のUKバンド」と呼びたい。
…と、いろいろと偉そうなことを書いてきたけど、実は私もリアルタイムでワイノーの音楽と出合うことはできなかった。私が初めて手に取ったワイノーのディスクは解散後にリリースされたベストアルバム「THE BEST OF WINO Volume 1」だ。このベスト盤は先述した雑誌「スヌーザー」の編集長だった田中宗一郎氏が選曲、編纂を手掛け、非常な熱量のライナーノーツも寄せている。親しい友の死を悼む弔辞のような(そういえばこのベスト盤は友人との死別をモチーフにした「Friend Of Mine」で締めくくられている)ライナーノーツで記しているとおり、ワイノーはいくつもの珠玉の楽曲を持ちながら、決定的な傑作アルバムを残すことができなかった。1枚だけを選ぶなら、やはりこのベストアルバムになってしまうとおもう。厳選された16曲の完成度は言うまでもないが、構成も非常によく練られている。リアルタイムで間に合わなかった私にとって、このベストアルバムで彼らの音楽と出会えたことは、幸福だった。その後数年かけて、地道に中古ショップをめぐり、廃盤となったカタログのすべてを手に入れたことも、私にとっては大切な道のりだった。
同世代のほかのバンドと比べても、その才能と実力に対するワイノーの評価はあまりに過小であり、まさに「Devil's Own」といっていい。当時は気まぐれでつけたブログタイトルだったが、今となっては彼らの素晴らしい音楽を忘れ去ってはならない、という奇妙な使命感さえ覚える。ろくに更新もしていない弱小ブロガーの、滑稽すぎるおせっかいではあるが。
最後に、私がふだん聞いているプレイリスト「MY BEST OF WINO」(約80分)を置いていきたい。あと1曲削れば、CDに焼けるのだけど、どうしてもできない。これでもなくなく削ったのである。ウェブの片隅にあるこの文章が、あなたの目にとまり、その耳に彼らのメロディが届くことを願って。
- The Action (All I Really Want To Do)
- Tomorrow
- Velvet
- Everlast
- Thank You
- New Song
- Ain't Gonna Lose
- Wild Flower
- Watermark
- My Life
- Sullen Days
- Loaded
- White Room
- Anyhow
- 太陽は夜も輝く
- Going Out
- Freedom Song
- Devil's Own (Mix No.4)