Devil's Own

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『借りぐらしのアリエッティ』(米林宏昌)

2010

 人間の日常が、小人の目を通して見た世界へと見事に異化されている。物語に起伏がなく、アリエッティと病弱な少年のゆるい交流にほとんどが割かれている。彼らの邂逅は周囲の世界を壊滅的にまで歪めてしまう、といえば、『崖の上のポニョ』の変奏といえるか。物語に綻びのない起承転結を求める人にとっては、この映画は退屈なものと映るだろう。実際この映画は驚くほど淡白であり退屈ですらある。よく出来たシナリオであれば、少年にとってアリエッティとの出会いは、恐怖の克服やニヒリズムからの脱却でなくてはならないし、アリエッティにとっても少年との出会いは小さな世界から飛び出すカタルシスに満ちた体験ではなくてはならないはずだが、そうはならない。おそらく作り手はそうしたことには興味がなくなってしまっているのではないか。ドラマ自体の希薄さが、夏の日のボーイ・ミーツ・ガールのはかなさそのもののようでもあった。劇中で少年はアリエッティに姿を見せて欲しいと何度も懇願する(「見てもいい?」というせりふのセクシーさ!)。小人の世界において人間に姿を見られることは犯すことの出来ない禁忌であるが、一方でアリエッティは心のどこかで少年に姿を見られることを期待している。二人の少年と少女の間で、見る/見られるという体験がたいへんなスリルと熱を帯びており、その交感はエロティックでもある。だいたい手のひらサイズの美少女が床下に住んでいるという発想からして倒錯している。こんな性的な作品を子どもたちに見せていいものなのかと勝手に心配してしまった。