Devil's Own

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『ゴダール・ソシアリスム』(ジャン=リュック・ゴダール)

"Film Socialisme"2010年/フランス・スイス

 高熱にうかされたような状態で劇場を出たのはいつぶりだろう。100歳に達したオリヴェイラゴダールとは同い年になるイーストウッドの近作も確かに驚くが、真に過激な老人はやはりゴダールだった。『シネマ・ソシアリスム』、ゴダールの6年ぶりの新作は見る者を激しく混乱させ、陶酔させる。なかでももっとも過激なのはひとつ目のチャプター「こんな事ども」だ。冒頭スクリーン全体に映し出された、海面の生命体のような動きに吸い込まれ、そこからは眩暈がするようなイメージと轟音の洪水、言葉と引用の嵐。デジタルカムの使用によってゴダール特有のぱきっとした色彩と質感はより鋭く研ぎ澄まされており、そのうつくしさに陶然とする。ゴダールとしか言いようがない映像のなかに、携帯カメラで撮られたネット動画のような画質の粗い映像やひどいブロックノイズ、ひずんだウィンドノイズなど普通の商業映画ではまず使い物にならないような「クズ」や「ゴミ」までもが乱暴にぶち込まれている。IMAXカメラやBlu-rayソフトが登場し、映画を撮る者も見る者もそのほとんどが高解像度の映像とクリアな音質を志向する現代の流れを分断し、逆行するかのごとき試み。にもかかわらずこの圧倒的なうつくしさはどうか。佐々木敦は今作におけるゴダールの「美しさの放棄」を指摘していたが、粗い画質の映像が印象派絵画のように見える瞬間や、オウテカやプラスティック・マンのレコードに通じるようなひびわれたウィンドノイズの気持よさをどう説明するのか。ここには、ひたすらソリッドでプリミティブに研ぎ澄まされた映画の「美」そのものがあるようにおもえる。まぁ何が言いたいかというと、ゴダールは超かっこいいということです。