Devil's Own

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『ローラーガールズ・ダイアリー』


 ここにはすっかり書きそびれてしまったけど、ジャック・ロジエの『オルエットの方へ』というものすごい傑作があり、見た人はおわかりかとおもうが、ほんとうにすごい。160分くらいひたすら女の子がきゃっきゃ言っているだけの映画で、もう本当にきゃっきゃ言ってるだけなのだよ。女の子がはしゃぎ、走り、跳躍するその振る舞いが、どうしようもなく映画を輝かせてしまうのはなぜなのか。彼女たちはなにか特別な魔法に守られているようで、いつも不思議におもう。その魔法は、女の子だけが人生のある限られた一時期だけ身にまとうことができるのだが、往々にして本人はその魔法の加護にいることに気がついてもいない。そうして気がつけば、通り過ぎていってしまう。だからこそ、その魔法をあまさず捉えた映画たちにわれわれは惹かれてやまない。ドリュー・バリモアの監督処女作は、その魔法の正体をいきなり「This Is It!!」と指差してしまった感がある。『ローラーガールズ・ダイアリー』は、映画人としてのドリューと不良少女としてのドリューの実存が一分の狂いもなく重なった結晶としてここにある。地方都市の閉塞した日常を息苦しく過ごしている17歳の主人公ブリス(エレン・ペイジ)が、ローラーゲームというちょっぴり過激なスポーツにのめりこんでいく。ローラーゲームの選手としての成長が、彼女の人間としての成長をうながす。弱小チームが勝利に向かって団結していくジャンル映画の定石であり、ひとりの少女が母親、恋人、友達との葛藤を克服していく普遍的な物語でもある。なるほど、この「何の変哲もないアメリカ映画」がドリュー・バリモアによって撮られたことには興奮する。生まれたときから今日に至るまでハリウッド芸能界の栄光と欲望こそが彼女の日常であり、たぶん彼女は映画の世界でしか生きることができない。頭のてっぺんからつま先まで、彼女の身体にアメリカ映画の血と膿が流れているような気がしてくる。だから、既にいろいろなところで指摘されているようにイーストウッ…、アルドリッ…とつぶやきたい誘惑がないわけではない。が、そうした言及はこの映画のキャッチーさをかえって損ねてしまう気がするので控えておく。この映画はそういう「アカデミックな文脈」からどこまでも自由であってほしい。シネフィルだけのものにはさせないぞー。
 主人公は、母親、親友、恋人と三つの関係において葛藤を抱えることになるが、こうした葛藤を描く際の会話劇はどこまでも厳格な切り返しによってまとめられている。一方、見せ場となるローラーゲームの試合場面は極力カット割らずに、全景を重視した画面つくりが施されており、その的確な運動神経には驚かされる。だが真にこの映画を躍動させているのは、いまその瞬間に輝いている女の子たちの身体であり、なによりも寸断なく溢れてくるポップミュージックの数々である。その多くが私が学生の頃に繰り返し聴いてものばかりであり、試合場面のラストでゴー!チームがかかるところなんてもう…。id:maplecat-eveさんが「私たちが3分間のポップミュージックの魔法をまだまだ信じていいんだということを教えてくれるかけがえのない映画だ。」と書かれていたけれど、ほんとうにその通りで、この映画は3分間のポップミュージックと分かちがたい絆で結ばれている。主人公が夢中になったローラーゲームやロマンスが、1年後にも価値のあるものとは限らない。この映画は、その苦味すらもおおらかに肯定してみせるのだ。おそらく多くの女性はこの映画にかつての自分を見て恥ずかしさに身をよじってしまうのではないだろうか*1。Girls Will Be Girls!そういう映画です。

*1:要は『(500)日のサマー』を見た男子状態