Devil's Own

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『贖罪(#5.償い)』(黒沢清)

"Shokuzai(ep.5 Recompense)"2012/JP

 黒沢清の新作が毎週見られるという幸福をもたらしてくれたドラマシリーズがついに終わった。これまでの4話はそれじたいが短編映画として独立した面白さがあったが、最終話では提示されてきたいくつかの謎が解き明かされる。軽すぎる真相にはやや脱力してしまったが、演出の力だけであたかも「呪わしい事実」であるかのように見せる手腕には舌を巻いた。『贖罪』というドラマを支配する「偶然」については既に言及したとおもう。偶然を「呪い」に見せるのか「ご都合主義」にしてしまうのかは演出家しだいだ。最終話では、すべての悲劇の発端となったある「偶然」が描かれるのだが、この場面はシリーズ全体を通したハイライトといえるだろう。ひとつひとつの「偶然」をていねいに重ね合わせることで「必然」にまで高めてしまっている。原作は未読だがどのように書かれていたのだろうか、こうした物語に説得力を持たせるにはかなりの力量が必要だとおもうのだが。婚姻(蒼井優)、暴力(小池栄子)、私刑(安藤サクラ)、嫉妬(池脇千鶴)とこれまで描かれたいくつかのテーマを小泉今日子が知らず知らずになぞっていく作劇も見事だとおもった。犯人役は1話の時点でだいたい予想がついていたが一応触れずにおく。その妻を演じた唯野未歩子も幽霊的であり、おそろしかった。これに対して小泉は非常に肉感的に撮られていて、『トウキョウソナタ』にはなかった官能が見られる。2、3話は特に傑出していたようにおもうがどの話も楽しめた。最終話は特に「あの世」へ接近していたとおもう。暴力や性表現が淘汰される「去勢」が進んでいく時代で、この世ならざるもの、映してはいけないものをテレビ画面に流した稀有なドラマといえるだろう。