Devil's Own

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『大怪獣バトル ウルトラ銀河伝説 THE MOVIE』


 祝日ということもあり子ども連れが多かったのだが、とにかくわいわいと劇場が活気づいていた。『カールじいさん〜』のときも思ったけど、こういう映画はやっぱり子どもたちがたくさんいる時間帯に見たほうがいい。作品自体も、素直に楽しめる佳作だとおもう。それにしても驚かされるのはほぼ全編、ウルトラマンだけの仮面劇として押し切った点である。ここには地球はおろか人間すら最小限しか登場しない。われわれ地球人のあずかり知らぬところでウルトラマンは呼吸し、生活し、社会を営んでいる。そこには当然のように善悪の規範があり、力学の衝突があるのだ。確かに、「ウルトラマンレオ」や「ザ☆ウルトラマン」におけるいくつかのエピソードでもウルトラマンの衝突が描かれてはいた。しかし、本作で描かれるのは、地球人がまったく介在しない純然たる「彼ら」の抗争である。その意味で本作は、『スターウォーズ』さながらのスペースオペラの様相を呈しており、いろいろなところで指摘されているように内山まもるの漫画世界に近い。開始当初はほとんど神と同一視されていたウルトラマンではあるが、シリーズを追うごとにいい意味でも悪い意味でも「人格」が付与されていった。悩み、失敗しながら、成長していくヒーロー像、相対化のなかで揺らいでいく善悪の倫理など、近年のアメコミヒーロー映画で扱われるモチーフもかなり早い段階で先取りされている。シニカルなSFマニアからは「ご都合主義」と揶揄されがちなウルトラマンの強靭な肉体や驚くべき超能力もそれなりの経緯と痛みを伴って得られたものなのだ。かつてウルトラマンはわれわれと同じ人間の姿だった。地球から見えるウルトラの星の光は、ウルトラマンが人間の姿だったころの光であり、ゆえに地球からウルトラの星をながめることは彼らにとってロマンチックな意味を持つ。ウルトラマンが地球にこだわるのにもそうした背景があるのだ。ウルトラの星の「史実」は70年代くらいからテレビシリーズや児童雑誌を通じて徐々に形成され、「ウルトラマンメビウス」においてほぼ完成された。こうしたウルトラマンの人格化、史実化、外部化を極度に推し進めた形態として内山まもるの漫画「ザ・ウルトラマン」があったのだが、本作は、そんな内山の漫画世界をハリウッド産SF〜ヒーロー映画の方法論で再現しようと試みている。それが100パーセント成功しているとは言いがたいのだが、各々のキャラクターや設定を活かしたウルトラマンの動かし方などはなかなか考え抜かれている。特撮に関しても、ミニチュアワークなどのフェティッシュな喜びはないものの、いわゆる「板野サーカス」と呼ばれるど派手なフルCGアニメが主流となりつつあった現状において、あくまでスタントマンによるアナログなアクション表現を素材とするところにも好感がもてた。悪役のウルトラマンベリアルが、つぎつぎとウルトラ戦士を倒しながら侵攻してくるくだりなどは素直に熱くなれるし、こうした場面で起こりがちな技や力のインフラも、それぞれのウルトラ戦士にきっちりと見せ場を作ることで回避していたようにおもう。個人的にはエースがサーキュラーギロチンを撃つところなんか最高に燃えた。エースの光線技はどれもフォームがかっこいいんだよね。物語のプロットも、メビウス→レイ→ゼロと視点がスライドしていくきれいな三幕構成になっており、わかりやすい。確かにウルトラマンゼロ(正義に目覚める力)とウルトラマンベリアル(正義をなくした力)のキャラクター造形には詰めの甘さがあったとはおもう。ゼロがヒーローとして自覚するためにはやはり挫折のプロセスを描くことが必至であるし、ベリアルも単純に力に魅せられていたという以上の「悪の倫理」が必要だろう。ベリアルがレイの中にある暴力性を呼び覚ますという場面があるのだが、こうした善悪の鏡像関係はもっと巧く利用できたはずだ。とはいえ、極端にシリアス化するあまりかえって退屈になってしまった一時期のウルトラシリーズをおもえば、このような明朗さはむしろ喜ばしいのではないか。ウルトラ怪獣ポケモンのように扱われるのは僕も落胆するが、ポケモンのように操れる怪獣たちにこそちびっこは夢中になるのだ。いつでも子どもたちこそが正義。

余白

  • アクションはかなり細かいカット割りと動き回るカメラによって構成されて、かなりハリウッドナイズされてはいたが、それでもうまくいっているほうだとおもう。こういうウルトラマンも一度は見てみたかったのでこれはこれでよし。監督の坂本浩一はアクション俳優出身だけあっていい仕事をしている。ただ、人間が登場するドラマ部分に関しては単調な顔面アップのみで殆ど素人のレヴェル。うーん。
  • 光の国が氷漬けにされる中、なんとかバリアで身を守る初代ウルトラマンとセブン、そのあとあえなく氷漬けにされるゾフィー兄さん・・・。やはりやってくれた!
  • セブンに息子いるのは地味にショックがでかい。
  • 回想シーンで父に髭がなく、角が短いという芸コマぶりにも感心した。ゾフィーの勲章もなかったし。あとは父と母が 
  • ウルトラシリーズには珍しくタレント声優を投入していることも話題になったが概ねよかったとおもう。長谷川理恵ウルトラの母だけはだめ。これはミスキャスト以前の問題。最大のトピックはやはり小泉純一郎が演じたウルトラマンキングなのだが、僕はキングじいさんと小泉ってけっこう似てるとおもうんだよね。キングってけっこう頑固だし、自己中だし、テンションで押し切っちゃうし。基本的におきにのレオ兄弟以外には冷たいし。
  • ダイナが出てきたのもうれしかったけど、やっぱすごい浮いてたな。