Devil's Own

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実相寺昭雄監督作・ウルトラマンマックス「胡蝶の夢」「狙われない街」レヴュー

あーあ、厄年ですよ。
実相寺昭雄の「あさき夢見し」見たんだが、素晴らしかった。

あさき夢みし [DVD]

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エロ控えめなところも◎。光線処理や特殊レンズを用いたサイケデリックで耽美的な映像美は基本軸だが、時代劇独特のトリップ感と密室的なエロティシズムに息が詰まりそう。原作の情報量の多さゆえに失敗作となってしまった「姑獲鳥の夏」でやりたかったことがなんとなく見えてくる快作。
そうそう、「ウルトラマンマックス」で彼がメガホンを撮った2本をようやく視聴した。
まずは第22話「胡蝶の夢

タイトルの通り荘子の寓話「胡蝶の夢」をモチーフにしたメタ作品。こういうのはありそうでなかった。シリーズの設定そのものを覆すパラレルワールド的性格が強く正直子どもにはかなり難解。空想上ではあれど、怪獣を生産し続けている製作者側の狂気にフォーカスした画期的傑作だ。
特筆すべきは、登場する怪獣「魔デウス」のアイデアの素晴らしさ。人間にとっての恐怖の概念を抽象化し、変幻自在のフォルムを持つ生命体といったところで、同じく不条理をモチーフにしたシュールレアリズムの権化怪獣ブルトンを思わせる。
「魔デウス」という名前の由来も、古代ギリシアの典型的演劇手法デウス・エクス・マキナを捩ったものであるというのも興味深い。デウス・エクス・マキナは、風呂敷を広げ過ぎて収集がつかなくなった物語を神や天災といった絶対的で不条理な「力」を登場させることで、収束させる手法で、ゲーテの「ファウスト」やシェイクスピアの「真夏の夜の夢」が典型的な例だが、ある意味で「ウルトラマン」もデウス・エクス・マキナドラマツルギーに頼っているといえよう。
本作はそういった「決まり事」へのアンチテーゼを明確に打ち出した問題作といったところだ。
ドラマは大人は非常に楽しめるだろうが、子どもにはちょっと辛いかも。

それから第24話「狙われない街」

これはタイトルからして往年のファンにはにやりなのだが、67年作の「ウルトラセブン」第8話「狙われた街」の続編になっている。あれから40年後の後日談という感じだ。
同監督が無名時代に撮った「狙われた街」は第1期屈指の傑作だが、一応内容をレジュメしておく。北川町で市民が突如凶暴化するという事件が頻発、調べていくうちに北川町で売られている煙草に原因があることがわかる。これは地球侵略を企むメトロン星人の謀略で、凶暴化によって人間の信頼関係を蝕み争いごとを行わせて自滅させようという計画だった。メトロン星人はセブンによって葬られるが最後に「これは遠い未来のお話です。私達人間は宇宙人に狙われるほどお互いを信頼していませんから」という痛烈なアイロニーを含むナレーションで終了するという作品だ。

で、本作はあのとき倒されたはずの宇宙人が実は生きていて・・・というストーリー。見比べると同一人物だとは思いがたいが、40年地球で暮らしたんだから「人間らしさ」を学んだのかもねと強引に解釈。
煙草というアイテムは今回携帯電話に置き換えられ、時代的変遷を踏まえつつの文明批判作品になっている。
「もう地球もこの街も狙わない。黙っていたって地球は私達の手に落ちると確信したんだ」
そう言ってメトロン星人は40年後様変わりした北川町を捨てて帰っていく。シニカルではあるがどこか憎めない紳士的なメトロン星人のキャラクターを更に膨らませた一編だ。少しは希望的だった「狙われた街」に比べてこっちはかなり救いようのないラストになっている。
旧作へのオマージュも随所に見られるし、往年のファンにもしっかりアピールした傑作だとは思うし、事実僕もとても楽しんで観たが、疑問点がないわけではない。
子どもが見る番組だから、あくまでそこは希望的にやってもらいたくもある。
ケータイを持ち退化していく人間・・と聞くと、あの悪名高い迷著を想起せざるをえない。

ケータイを持ったサル―「人間らしさ」の崩壊 (中公新書)

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批判というより愚痴というか、説教調だけが先行して論点の甘さを露呈しまくっているのは素人目にも明らかな情けない論文だが、「狙われない街」にも、これに類似した所謂「団塊世代」独特の精神性が発現しているようには思う。
若者へはステレオタイプ的で狭義な価値観しか持っておらず、自身の世代への集団帰属に過剰なまでのプライドを有する愛すべきおじ様方である。
「人間らしさ」なんて時代と一緒に変形する極めて曖昧な価値観なのだから、崩壊して当たり前だと僕は思ったりもする。だから「人間が退化しているんだ未来は暗いんだ」という「団塊の世代」的なスローガンを子ども番組で見せるのはどうかなとは思った。