Devil's Own

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『映画プリキュアオールスターズ New Stage みらいのともだち』(志水淳児)

"Pre-cure All Stars New Stage"2012/JP

今年ようやく小学1年生になる妹といっしょに見てきました。「小学生になったらもうプリキュアなんて見ないんじゃないの?」ときいたら「とりあえずがっこうではみてないってことにする」って言ってました。進学早々、クラスメートと腹の探りあいですな。私は実家暮らしをするようになってからなるべく妹をこまめに映画館に連れて行くようにしていて、『プリキュア』を劇場で見るのは3回目。大人になると、幼いころにこういうイベント映画を見に行くことの重要性に気付くものだ。私も夏のドラえもんと冬のゴジラは必ず連れて行ってもらっていたし、今の私にとって重要な記憶になっている。『プリキュア』は上映時間が短めなので途中トイレに連れて行かなくて済むのがいいですね。関係ないけど、ちびっこを映画館に連れて行くとチケット売り場や売店でスタッフのお姉さんとかが割りと愛想よくしてくれるじゃないですか。「ジュース持てる?」とか言ってくれたりして。今回、妹にはそれが気に食わなかったみたいなんですよね。「なんだよ!3歳児みたいな扱いして!」とたいへんご立腹でした。
 結論から言って今作は傑作といえるのではないか。70分の短い上映時間の中で、少女の成長譚を描くウェルメイドなシナリオ、血湧き肉躍るアクション、新旧プリキュアの顔合わせ、ちびっこを飽きさせない適度なイベント性がバランスよく配置されていたようにおもう。
 冒頭、みなとみらいを舞台に怪獣化した「フュージョン」が大暴れ。実在の街というだけで怪獣映画的なカタルシスがあってテンションが上がりますよね。まあ九州に住む女児の大半にとってはみなとみらいもメルヘンランド並みになじみのないものだとおもうが。巨大な敵を相手に歴代プリキュアたちが空中戦を繰り広げる導入部は、舞台が横浜だったこともあり『大決戦!超ウルトラ8兄弟』(2008)のクライマックスを思い出したりしたのですが、あれよりずっと全然よく出来ていたとおもう。フュージョンは一度はプリキュアたちに下されるが残骸は各地に散らばってしまい、そのうちのひとつが映画オリジナルのキャラクターである坂上あゆみに拾われる。転校したばかりで孤独感を抱えていたあゆみはフュージョンの残骸を「フーちゃん」と名づけてかわいがるのだが、そのうち手に負えないくらい力を蓄え始めて…という物語。あゆみにとって脅威となるものをフーちゃんが次々と消し去っていくという展開は陳腐ではあるが「どくさいスイッチ」的な怖さがあっていいですね。母親が消されてしまう場面では妹もけっこうびびったし、こういう酷薄さは今の子ども映画においては貴重だとおもう。
 『プリキュア5 Go Go』以前のキャラクターが一言も声を発さない点は賛否が分かれたようだが、個人的には今作いちばんの英断と評価したい。一応わからない人のために説明すると現在、プリキュア映画は年に2本制作されていて、春に公開する「オールスターズ」、秋に公開するテレビシリーズの劇場版というのが恒例になっているんですね。今回は「オールスターズ」シリーズの4作目なのだが「new stage」という言葉通り、いくつかマイナーチェンジが図られていて、もっとも顕著なのが先に書いた『Go GO』以前のキャラクターの「モブ化」である。すべてのキャラクターの変身、名乗り、必殺技のバンク映像が連打され強烈なドーピング演出が「オールスターズ」シリーズの基本的な構成だったのだが、昨年の『オールスターズDX3』の時点で登場するプリキュアは21人。既に限界が見えつつあったとおもう。あれ以上行くと本当に変身シーンと必殺技シーンのバンク映像をひたすら見続ける映画になりかねないしキャスト起用のためのコストもばかにならない。経済的な判断であると同時に、主要ターゲットである女児層のニーズにもしっかり応えた「切り捨て」だったとおもうんですよね。この映画を見に来ていた女児層で『Go GO』以前のキャラクターに思い入れがある子がはたしてどれくらいいるのか。『5』世代の子の大半は『プリキュア』を「卒業」してるとおもうんですよ。ちなみに私の妹は2年前の『ハートキャッチプリキュア!』からの世代で、ここまでのメンバーの変身シーンには「きゃー、ひさしぶりだあ」ってめちゃ興奮していたのですがその前の『フレッシュプリキュア』陣の変身シーンでは「ああ、この人たちよく知らないんだよなあ」と言っていました。あくまで私の妹から帰納的に導いた主張ですけどね。もしかしたらDVDやCS放送などで過去のプリキュアも超知ってるよ!という女児もいるのかもしれませんが、私の予想する限り不満を述べている人の大半が…その、ねえ…。『ゴーカイジャー』に熱狂した私が言えた義理ではないですが。
 この映画のエッセンスは「女の子は誰でもプリキュアになれる!」というメッセージにあるとおもいますね。私は坂上あゆみのキャラクターに「帰ってきたウルトラマン」の坂田次郎や「ウルトラマンA」の梅津ダンの姿を見つけてぐっときてしまった。歴代プリキュアたちの物語は「ウルトラ兄弟」的な継承とユニティの精神性に近接しつつあるとおもう。ちびっこたちが映画に向かって「がんばれー」ってライトをぶんぶんと回している幸福な光景を見ることもできたし、ここ最近ではベストクラスの劇場体験をできました。