Devil's Own

cinema, music, book, trash and so on...

狂気の宴のサウンドトラック―!!!が異端であり、一方で伝統的なアーティストであるということ

 最近ブログ上で音楽ネタを書くことが滅法少なくなっていることに気がついたのだが、日常で音楽を聴かなくなったのかと聞かれればそんなこともなく、最近だとカヒミ・カリィドビュッシーブルーハーブとミンガスが交互で垂れ流されている。*1しかしながら愛機iPodが半年ほど前にお釈迦になってからというもの、移動中は純粋なアンビエント・ミュージックだけを聴いて生きているし、昔ほどマメにCDショップにも通わなくなったので、やはり一般的にいえば少しばかり音楽から遠ざかった生活をしているのかもしれない。僕自身としては前よりずっと本質的な音楽にコミットしている気がしているけど。
 とはいえ、昔と比べて明らかに変わったのは殆ど新譜をチェックしなくなったこと。というよりむしろ新譜に対する興味がなんとなく鳴りを潜めているなという感じ。CDを買うときも、新譜のレヴューが掲載されている雑誌よりもムジカ・ロコムンドを参考にする方が圧倒的に多い。単なる個人的なモードの問題だから、シーン自体が退屈になったということではないと思う。むしろ中高生にしてみれば、この目まぐるしさはエキサイティングなんだと思う。とりあえずアークティック・モンキーズ以降のインディーブームでカッコいいバンドが沢山出てきているのは解るのだけれど、お世話になっているブログ各地で言及されているKlaxonsClap Your Hands Say Yeah以外は全然ぴんと来ず。しかも上に上げた両者に関しても試聴止まり。高校時代に共にStrokesの興奮を共有した僕のお友達なんかは、「新作チェックするのも、もう疲れた」とか言っていて、それに関しては全くもって僕も同感だったりするのだが、先日そんな彼から「!!!(Chk Chk Chk)の新作はとてもいい」とのメールが来たので、お金余ったし買うことにした。

Myth Takes [帯解説・歌詞対訳 / ボーナストラック1曲収録 / 国内盤] (BRC167)

Myth Takes [帯解説・歌詞対訳 / ボーナストラック1曲収録 / 国内盤] (BRC167)

 とまぁ非常にだらだらとした前置きになってしまったのだが、僕はこの作品を聞いて結構興奮している。!!!自体は、前作に当たる「Louden Up Now」からチェックしているのだが、こんなにダイレクトに身体に訴えかけてくるような感覚はなかった。*2今回のアルバムはサウンド面においては猥雑さと暴力性、リリック面においてはアイロニカルな性格を前作よりも数倍色濃くしている。オープニングトラックでもあるアルバムタイトルに、「神話」と「間違い」というダブルミーニングを持たせるような機知に富みながらも、その妖艶なベースラインを聴いた瞬間、このアルバムは前作にも増して知性的であると同時に、獰猛で暴力的な凶悪性を有したディスクだと解る。理想化された全ての宗教やイデオロギーを鼻で笑い、世界を支配している凡庸な価値観や形骸化したモラリティーをレイプする。理性なんぞクソ食らえと言わんばかりに、ただひたすらビートを貪り、踊り狂うための音楽だ。そこにあるのはどこまでも変態的でカオティックな己の欲望だけ。理性とかコトバではなく滾る様な感情と欲望の渦―強いて表記するならば、そう、エクスクラメーションマークが3つほど並んだときの、あの滑稽だけれど強烈に個性的な記号だ。まさに彼らは単純明快なシンボルを自らのバンド名に関することで、その曖昧なアイデンティティーを記号化してきたと言えるだろう。それは決して刹那的な快楽主義でも、自己満足なマスターベーションでもない。セックスが男女の相互オナニーになりかねないのと同じくらい、ぎりぎりのラインで、この音楽は有機的足り得ている。
 閉ざされた和室で男女(近親者が望ましい)が飽きることなく、互いの身体を求め合っているかのような、禁忌的で動物的な本作のヴァイブスを、作家に例えるなら岩井志麻子*3貪欲に快楽を追及するデカダンな姿勢の根底にあるものは、救い様のない現世へのペシミズムと、エクソダスへの憧憬。凡庸で退屈な世界の「常識」とやらに支配されるくらいなら、逸脱者(アウトサイダー)でいた方がマシだという実存主義的な精神性だ。
 しかしながら、それって至極古典的なロックンロールの思想だったりする。要するに!!!はとても異端でエキセントリックなバンドのように見えて、実はとても生真面目でトラディショナルな性格を持ったアーティストだと言う事だ。
 前回は栗山千明を巡ってひたすら処女崇拝的な記事を書いていた癖して、今日はセックス万歳な記事を書いて日和ってんじゃねーと思う人もいるかもしれないけどさ(笑)でも人間ってそういうものです。マーヴィン・ゲイが政治的で道徳的な性格の「What's Goin' On」の次に、セックスまみれの「Let's Get It On」をリリースしたようなものです。

*1:うちのコンポはCD3枚とMD1枚を格納できるので通常アルバム4枚ワンセットでのヘビーローテーションとなる。

*2:まぁあの頃の僕は浪人生だったからあんなディープサイケなパーティーレコードが琴線に触れる筈もないのだが。

*3:思えば日本ホラー大賞を受賞した彼女のデビュー作「ぼっけえ、きょうてえ」も、そのタイトルの無意味性ゆえの強烈な記号性によってアイデンティファイしていた。

ぼっけえ、きょうてえ (角川ホラー文庫)

ぼっけえ、きょうてえ (角川ホラー文庫)