Devil's Own

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オンガク雑誌なんていらない―サブカル系アイコンとして回収されるパフューム

クイック・ジャパン74 (Vol.74)

クイック・ジャパン74 (Vol.74)

 いつだったか忘れたが鹿野淳が編集長だった頃ロッキングオンジャパンで、浜崎あゆみが表紙だった時があった。買うことはなかったが、あの時初めて鹿野淳という名前を覚えた気がする。あれは鹿野氏の壮大な悪ふざけだと今でも思っているが、エイベックスの意向だという世間の意見が恐らく真実だろう。浜崎あゆみは、「アーティスト」へアップデイトしようとする今日的な「アイドル」の先駆者だったと思う*1。自ら曲作りを手掛け、既に「アーティスト」として認知されていた宇多田ヒカルの対抗馬であることを巧みな広告戦略によって印象付けた上で、「アーティスト」として音楽雑誌の表紙を飾る。この前月か後月の表紙は宇多田ヒカルだったことを考えると象徴的な出来事だった。以降、「アーティスト」的な「アイドル」というフォロワーが次々と登場し、曲作りを手掛ける女性ヴォーカリストは、「アーティスト」と呼ばれ、「アイドル」と微妙に区別されて認識されている。今更誰も倖田來未をアイドルとは呼ばないだろう。彼女は、歌詞も書いているし、「アーティスト」満載のサマーソニックに出演していた。僕は、こうした動きを批判しているわけではなくむしろいつも好意的に見ている。勿論アユが表紙のジャパンを買うことはないし、サマソニにくーちゃんを見に行くことはないが、既存の枠組みが木っ端微塵に破壊される様はどんな形であれダイナミックで美しい。
 そうした動きに比べ、パフュームがQJの表紙を飾るなどなんと退屈で予定調和なことだろうか。下北沢のヴィレッジヴァンガードに大量に平積みされる様子が目に浮かぶようだ。こうして、サブカル向けアイコンへと見事に回収されていったパフューム。複雑な楽曲構造と、それに相反する「中身のない」或いは「アイドル」的なリリック、無記号化を更に推し進めたヴォーカルエフェクト*2など、徹底した非人間志向が過去最高に極まった「ポリリズム」が、ヒットしたことはある意味事件だったと思う。しかしこうした音楽は恐らくこれからどんどん模倣され、量産されるであろうし、パフュームにしてもこれから同じような曲をリリースし続けるに違いない。テクノポップの方向性としては「ポリリズム」はもう臨界点だろう。
 「アーティスト」としての立場を得ようとする浜崎あゆみ倖田來未のストラテジーは、「アーティスト」の「アイドル」に対して優越性に依拠している、『アーティストはアイドルよりもスゴい』、こうした一般的認知が存在するが故に、彼女達はせっせと曲を書き、「アーティスト」の沢山いる雑誌やロックフェスに積極的に身を投じるのである。パフュームという「アイドル」は、こうした優越性へのアンチテーゼだった。中田ヤスタカの作った曲たちがどんなに複雑で、テクノロジックであったとしても、あくまでパフュームはアイドルであることに意味があった。与えられた曲を楽しく、可愛く歌うことが最優先なのだ。だから当然のようにライヴでは口パクだったし、でも可愛いからオールOKだ。そして彼女達の楽曲の最高傑作は、「チョコレイト・ディスコ」でも「ポリリズム」でもなく、「おいしいレシピ」に間違いない。*3だのにどうして、QJの表紙なんてやってるんだ。これには、彼女達を「アーティスト」として尤もらしく分析したテキストが寄せられているに違いない。インタビューで彼女達は、そんな編集意図はおかまいなしに、見当はずれなことを言っているだろう*4。そこを楽しむほかない。ま、ちゃんと読んでいないのでなんともいえないが。
snoozer (スヌーザー) 2007年 12月号 [雑誌]

snoozer (スヌーザー) 2007年 12月号 [雑誌]

 ところで、今号のスヌーザーで日本のロック/ポップアルバム150が特集として組まれている。これは日本一趣味の悪いファッション雑誌、ローリングストーン誌日本版における同様の特集に触発されたものであるらしい。それが、あまりに退屈だったのでと、相変わらず挑発的で傲岸不遜な調子のタナソウの論調は面白いのだが、厨房の頃からスヌーザーを読んでいた人間が読めば、この特集におけるランキングも十分に想定内で退屈なわけで、面白かったのは岡村ちゃんの「早熟」が7位だったことくらいだった。実はスヌーザーという雑誌の保守的な体質を露わにすることになったのではないかと思う。昔はスヌーザーも、t.A.t.Uを表紙にするだけの、エキセントリックがあった。あのとき妙にヒステリックな反応を示す読者がいて、つまらない奴だなと思ったが。あまり衒いすぎるのもよくないと思うが、下の方にXの「Blue Blood」とかリップスライムの「5」とか入っていたら笑っただろうな。でもXとかは本気でローリングストーン誌には選出されてそうだ、あいたたたた。
 とはいえ、今号のスヌーザーには愛すべき僕らのピペッツのインタビューが掲載されていて、この数ページのために買う価値がある。ピンナップかポストカードのようなキュートな写真をが彩る見開きが最高で、ぱらぱらとめくっただけでもそのページを開いてしまうし、インタビューではU2をこき下ろすという傲慢な発言を噛ましている。ビョークが好きだったのはちょっと残念だったが、まぁいいとしよう。結婚してくださーい。

*1:厳密に言えば川本真琴とかもいましたけど→議論あり:コメント欄参照

*2:つまり誰が歌ってるのかもわからん!ってくらい声にエフェクトかけ過ぎということ。かしゆかの声を聞かせろ!

*3:別に僕はパフュームのセルアウトに「けっ」となっている類の人間ではない。パフュームを知ったのは「チョコレイト・ディスコ」からなので、僕自身はセルアウト後パフュームを知った人間に位置するだろう。

*4:特にあ〜ちゃんね。