Devil's Own

cinema, music, book, trash and so on...

0528

明暗 (岩波文庫)

明暗 (岩波文庫)

 「明暗」を読了。人間の一番イヤーな部分を容赦なく描出しており、読み進めるたびに身につまされたり不安でたまらなくなったりする何とも冷酷な傑作。未完だが、本当にいいところで終わってしまっていて、その不思議な余韻がよい。何気ない所作や感情の機微を、感傷に流されることなくさらりと、それでいてドラマチックに描き出す漱石の手つきに毎度のことながら驚かされる。じりじり引っ張った挙句ようやく訪れる津田と清子の再会場面は、階段という極めて視覚的な舞台を選び、清子の何気ない動作や表情から服装に至るまで髪の毛の一本一本の動きすら見逃さず捉えようとする筆致で丁寧に書きつくされていて、スローモーション映像を見ているかのような錯覚を覚える。
 本屋をうろうろしていると、小栗虫太郎黒死館殺人事件」が河出文庫から出ていた。日本ミステリ史に燦然と輝く奇書であり、中学の頃に随分のめりこんだ。夢野久作ドグラ・マグラ」、中井英夫「虚無への供物」と合わせて日本三大ミステリと呼ばれている*1。15歳だった僕の夏休みからあらゆる「青春の楽しみ」を奪い去り暗黒に塗りつぶしてくれた三作でもある。あれからまだ一度も読み返していないので、この機会にと購入。確か「虚無への供物」も新装版で出ていたし、今読むとどうだろうか。楽しみだ。

*1:少数派だが、これに竹本健治匣の中の失楽」を合わせて四大ミステリと呼ぶこともある。