Devil's Own

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「恋するってすれっからしになることなのよ」―「暖流」「最高殊勲夫人」

 増村保造監督による57年版「暖流」をようやく見ることができた。これは素晴らしい。僕は増村・白坂コンビの中では「盲獣」を最も偏愛していたが、「暖流」はそれ比肩しうる稀有な傑作だと思った。増村の緻密かつ絶妙な画面構成を村井博が流麗な移動撮影で見事に体現しきっている。最高にドキドキする。物語は野添ひとみ扮するヒロインの21歳の誕生日に始まり、そして巡り巡って一年後彼女の22歳の誕生日が結びにすえられている。舞台である病院の門が開き、カメラがずずずずーと侵入していくシーンがオープニングであり、逆にエンディングではカメラは静かに後退し門が閉じるという円環構造が演出されている。なんにせよ90分そこらの上映時間にしてこの情報量とエネルギーが凄まじい。50〜60年代の大映映画で活躍し、増村作品にも「妻は告白する」などいくつか出演している根上淳が生真面目で血気盛んな主人公を演じている。僕にとって根上淳と言えば、「帰ってきたウルトラマン」の伊吹隊長であり理想のオヤジであるが、その大きな魅力である声はこの頃から力強く、痺れる。
 
初見したときはさして重要とも思えず、個人的にそんなに思い入れのある作品でもなかったが、気分が乗ったので同じく増村保造「最高殊勲夫人」も続けて見た。増村・若尾コンビ作の中でもとりわけカラリとした印象の風刺艶笑劇であり、増村版「結婚哲学」といったところか。ただし、僕としてはあややが出ていればそれだけで幸福なので無論最高。やはりラストカットあややのウインクが最高だ。スクリーンだとなおのこと映えていた。再見して思ったのはキャラクター配置の緻密さ。何気ないシーンでも多くの登場人物が必然性を持って動き回っており、ジャン・ルノワールと見まがうばかりだ。凄い。