Devil's Own

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『ベスト・キッド』(ハラルド・ズワルト)

"The Karate Kid"2010

 いじめられっ子が格闘技の訓練を積みリベンジを果たす、という少年ジャンプ的ストーリーはそのままに、舞台を北京へ移し空手はカンフーへと変更された。なぜかタイトルは"The Karate Kid"のままだが内輪では"The Kung-Fu Kid"と呼称されていたそうだ。スポ根モノの定石を踏襲しつつも、少年ドレ(ジェイデン・スミス)と彼にカンフーを仕込むハン(ジャッキー・チェン)の関係にフォーカスすることで、ドラマ性を増している。教育と継承という今日的なアメリカ映画のテーマがより前景化したともいえようか。ドレがジャケットを床に脱ぎっぱなして、母親を困らせているところをハンがさりげなく見ている。数日後ハンは、カンフーの修業と称して、ジャケットを着込み、脱ぎ、柱に掛けるという一連の運動を執拗に反復させる。「何を習ったの?」と問いかける母親に「何も」と答えるドレは、無意識にジャケットをハンガーに掛けているのだ。くる日もくる日も同じ運動を繰り返させられるドレが、痺れを切らしたときにはカンフーの基本動作が身についている。ドレのカンフー使いとしての成長がそのまま彼の人間としての成長(ひいては役者ジェイデン・スミスの成長)に連なっているあたりしっかり要所をおさえており好ましい。なによりもジャッキー・チェンの佇まいがいい。もちろんわれわれは過去のジャッキーの活躍を映画史的な記憶として知っているのであり、その彼がどうしてアパートの管理人に身をやつすに至ったかが物語の肝にもなっている。師匠の「弱さ」が明らかになり、初めて師弟関係を越えた分かちがたい結び付きが生まれていく。ここはオリジナルにはなかった展開であり、いい改変だとおもった。
 大抵アメリカ映画において、アジア人はどれも同じ顔か不自然にバタ臭いかのどちらかだが、この映画に登場するアジア人の面構えはみな魅力的である。ライバル役の少年の顔も憎たらしくていいが(アクションも凄い)、ガールフレンド役のハン・ウェンウェンなどは、目が細く鼻も低い典型的なアジア人顔にもかかわらず、ものすごいキュート。これは特筆すべき点だとおもった。若いふたりの思いがダンスによって盛り上がっていくところもいい。ジャンル映画としては少し尺が長いが、おもしろかった。ジェイデン・スミスの演技がウィル・スミスの完コピなのも笑えた。