Devil's Own

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『幻の女』(ロバート・シオドマク)

"Phantom Lady"1944

 ウィリアム・アイリッシュの原作が書かれたのは42年なのでわずか2年後の映画化ということになる。アイリッシュの原作は中学生のときに読んだ。ニューヨークを舞台としたノワール色の強い探偵小説で夢中になって読み、終盤であっけなく明らかになる真相にはたいへんな肩透かしを食ったこともよく覚えている。『幻の女』の魅力は、フーダニットやトリックの面白さというよりも刻一刻と迫るタイムリミットの緊張感であり、夜のニューヨークの退廃したムードであり、何より「幻の女」を追い求めるというモチーフそのものにあるのだ。この映画において真犯人は中盤で観客に示されるが、これは正しい選択だ。真実を知らずに殺人犯と行動を共にするヒロイン・キャロル(エラ・レインズ)が事件の核心に迫るにつれ、否応なく画面に緊張感が走る。劇中でキャロルは殺意にさらされる場面が二度あるが、照明、舞台装置ともにフィルムノワールかくありなんというべき素晴らしさ。殺人の衝動を「手」が呼び起こす、という真犯人のパラノイアティックな性格描写も興味深い。このような性格設定が原作にはあった思い出せないが、終盤ヒロインが追い詰められるシークエンスで、背後に手の置物が映りこむといった画面設計などは見事というほかない。*1アマゾンには消極的なレビューしか乗っていませんが、凡作などとんでもない。傑作です。なんといってもエラ・レインズの色っぽさ。

幻の女 [DVD]

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*1:画像のカットなんてこわすぎ。