Devil's Own

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アニメ映画ベスト10

ことしに入ってたったの1度しか映画のエントリーを書かないうちに、もう11月に入ってしまいました。もはやこのブログも忘れ去られているのではないかと心配しつつ、生意気にも年末恒例のたのしいおまつり企画には参加します。
アニメ映画ベストテン - 男の魂に火をつけろ!

1.『ナイトメアー・ビフォア・クリスマス』(ヘンリー・セリック

The Nightmare Before Christmas/1993/US

2.『魔女の宅急便』(宮崎駿

Kiki's Delivery Service/1989/JP

3.『モンスターズ・ユニバーシティ』(ダン・スキャンロン)

Monsters University/2013/US

4.『プリンセスと魔法のキス』(ジョン・マスカー、ロン・クレメンツ)

The Princess and the Frog/2009/US

5.『エスパー魔美 星空のダンシングドール』(原恵一

Esper Mami/1988/JP

6.『かぐや姫の物語』(高畑勲

The Tale of Princess Kaguya/2013/JP

7.『劇場版美少女戦士セーラームーンR』(幾原邦彦

Sailor Moon R:The Movie/1993/JP

8.『ヒックとドラゴン』(ディーン・デュボア、クリス・サンダース)

How to Train Your Dragon/2010/US

9.『ファンタスティック・プラネット』(ルネ・ラルー

Fantastic Planet/La Planète Sauvage/FR-CS

10.『ドラえもん のび太のワンニャン時空伝』(芝山努

Doraemon: Nobita in the Wan-Nyan Spacetime Odyssey/2004/JP

以下順番に紹介します。
ナイトメアー・ビフォア・クリスマス』。映画公開時にはまだまだ日本ではなじみの薄かったハロウィーンも最近は全国各地で盛り上がっているようで、うちのまちでも子供向けのイベントがあったし、ハロウィーンに仮装する会社があるなんていうニュースで見た。日本でハロウィーンが市民権を得るのにこの映画がどのくらいの役割を果たしたのかはわからない。しかし、少なくとも私にとって、この映画で初めて知ったハロウィーンという祝日が強烈な魅力を持ったことは確かだ。アメリカ映画にゴシックな感性を持ち込み傑作を連打していたティム・バートン人形アニメに命を吹き込む天才ヘンリー・セリック。二つの才能が融合した人気作だが、何度見てもみじめで悲しい気持ちにさせられる。クリスマスにあこがれる主人公ジャックの努力はドン・キホーテのように奇妙な悲しみと滑稽さを帯びる。誰からも喜ばれないプレゼントを山ほど抱えた招かれざるサンタクロース。得意げな笑い声がむなしく響く。ラストはとりあえずロマンチックにまとめてあるが、結局ハロウィーンの世界でしか生きることを許されない者たちの結末には、どこか寂しい気持ちにさせられる。それでも、私はジャックがプロデュースした悪夢のクリスマスが好きだ。陰険なホラーの世界で身を寄せ合って生きる不器用で滑稽な化け物たちが、抱きしめたくなるほど好きだ。そして、ラストにクリスマスからハロウィーンに贈られるささやかなプレゼント。たとえ間違っていたとしても、見当はずれだったとしても、誰かを喜ばせようとした化け物たちの努力はひとしく尊い。だからクリスマスって素晴らしい。置いてけぼりにされたとき、一人だけしくじったとき、仲間外れだと感じたとき、私は暗闇に生きる彼ら化け物たちのことを思い出すのだ。
2位。宮崎駿作品、というより一連のジブリアニメーションの中でも最も好きな作品が『魔女の宅急便』だ。「大衆性」をぎりぎり保っている最後の作品ともおもう。以降、宮崎は「作家」または「巨匠」に変わっていく。もっというとどんどん個人的な作品づくりに向かっていく。『魔女の宅急便』については実はここ1年くらい、詳細に論じてみたい、というと大げさになるけど、自分なりの感想をまとめてみたいと思っていて、なかなかできずにいる。年末に書くかも。
3位。ここ数年、やや不振が続いていたピクサーが久々に放った会心の傑作。今のところピクサー作品の中で最も好きな作品になっている。『トイ・ストーリー』や『ウォーリー』、『カールじいさん』とも迷ったけど、とりあえず今の気分ということで。いかにもピクサーらしい弱小クラブ、ウーズマ・カッパの面々も楽しい。
4位。初のアフリカ系プリンセスを主人公に「カエルの王子」をモチーフにした『プリンセスと魔法のキス』は、『白雪姫』から『アナと雪の女王』に至るまでディズニーが紡いできたプリンセスストーリーの一つの完成形ともいえる大傑作。日本ではいまいち知名度低いようにおもう。ジャズを基調にしたランディー・ニューマンの音楽も最高。
エスパー魔美』劇場版は原恵一の長編デビュー作。『ドラえもん のび太のパラレル西遊記』の同時上映として製作された。私がこの作品に触れたとき、もちろん原恵一という名前を知らなかったわけだが、いま見返すと後の傑作群につながる才能の片りんを見つけることができる。魔美と、解散寸前の人形劇団こけし座、母親を亡くし人形としか話さなくなった少女との交わりが原ならではの繊細かつ丁寧な手つきでつづられる。こけし座が子供たちの前で公演する場面は間違いなくトリュフォーの『大人は判ってくれない』のオマージュだろう。人はなぜフィクションに惹かれるのかという疑問への本質的な答えがある。子供たちが面白いものを見つけ、目を輝かせ、のめりこむときの原初的な喜びをとらえた名場面が、アニメで再現されていることに驚く。その後の展開でも原は、「物語」が人を勇気づける瞬間を描ききり、一方で人が「物語」にとりつかれる美しくも恐ろしい宿命も表現する。公開当時の評判はよくなかったと聞くが、40分の短い上映時間に若い才能がほとばしる。
6位。およそアニメーション映画というくくりの中で、もっとも途方もなく、ほとんど現代美術ともいえる領域にまで到達してしまったのが『かぐや姫の物語』だ。おそらく高畑は二度と長編をつくることはできないだろうが、この1作だけでも後世に残る仕事をしたといっていい。誰もが知っていて、誰も知らなった物語。かぐや姫の物語にここまで息をのみ、胸をつかまれてしまうとは思わなかかった。
セーラームーンR』。号泣したまんが映画。セーラームーンプリキュアと違ってあまり殴り合いをしないのが私としては物足りないのだが、本作は劇場版とあってフィジカルな戦闘シーンがあり燃えます。私はセーラージュピターが好きなので、ジュピターが序盤に敵の攻撃で吹き飛ばされ、電話ボックスに激突する場面にはドキリとさせられる。過酷すぎる展開で女児を絶望の底へ叩き込んだシリーズ第1作の最終回と第2作の1クール目「魔界樹編」を織り交ぜリメークしたような内容だが、それぞれにあった欠点を克服し、完成度を高めている。ミュージカル的演出のクライマックスは全シリーズ通しても屈指の名場面だろう。5人の中でどうして月野うさぎが主人公なのかという疑問への回答にもなっている。
8位。説明不要でしょう。丁寧なシナリオとアニメーションが持つ豊かなイマジネーション、活劇性が高度に融合した傑作。4位の『プリンセスと魔法のキス』もだけど2010年公開のアニメはすごかった。続編の日本公開を切に願います。
9位。見るたびに新たな発見がある。SF映画ベストでも入れるかどうか迷った映画史に残る怪作にして名作。ボッシュの地獄絵をベースにしたとおぼしき不気味なキャラクターや陰鬱な背景、ひとびとの気色悪い表情、センス・オブ・ワンダーにあふれた世界観…一度見たら忘れられない。ターセム監督の『ザ・セル』で挿入され、印象に残っている人も多いと思う。ワンシーンワンシーンが美術品のように甘美で美しく、サイケデリックなサウンドトラックも効果を上げている。ストーリーはいまだによくわからないけれど、折に触れて見返すとおもう。ちなみに昨年リリースされたBlu-rayは元祖「進撃の巨人」という冗談のような紹介のされ方をしているが、シネフィルイマジカの商品ラインアップの中でもベストといっていい充実したパッケージ。特典で収録されたラルーの短編作品「かたつむり」はさらに狂っていて笑った。
10位にはドラえもん映画を。宮崎駿と同い年であり、東映動画の同期でもある芝山努。多くのアニメーターに影響を与え、一流の才能を持っていたにも関わらず、「作家」宮崎とは対照的に職人的にまんが映画をつくりつづけた。劇場版ドラえもんはシリーズ最多の22作を監督。独特の恐怖演出に定評があり、『アニマル惑星』、『パラレル西遊記』の2作はその頂点だろう。そんな芝山の最後の『ドラえもん』監督作が本作。キャスト一新前の最終作でもあり、まさに有終の美を飾る傑作になった。クライマックスのカーチェイスはおなじみの仲間たちが力を合わせるストレートに燃える展開であり、アニメーションの快楽に満ちている。のび太とイチの友情を描く手つきも丁寧だ。しずかちゃんの可愛さはシリーズ屈指ということも言い添えておく。
と、こんな感じです。規定でテレビシリーズを外さなくてはなりませんでしたが、個人的にはテレビシリーズのエピソードにも今回の10本に比肩する作品があるので紹介しようとおもいます。ほとんどが子供のころに本放送または夕方の再放送で見たもので、私にとってはどれもかけがえのない映像体験です。

赤毛のアン』#20.「再び春が来て」(高畑勲

Anne of Green Gables/1979
個人的には長編含めて、高畑勲のベストワークといいたい1本。高畑自身は「アンの気持ちがわからないから原作通り忠実にやるしかなかった」と言っているが、そんなことは嘘だと思う。アンがグリーン・ゲイブルズに引き取られて丸1年となる「記念日」を描いたエピソードは、ほとんどがアニメオリジナルのストーリーでありながら、アンとマシュウ、マリラの関係と心情を完璧に描破しているからだ。3人のキャラクターを理解していない人間にはこんな挿話を描くことは絶対にできない。「マリラにとっては何でもない日だと思うけど、自分にとっては人生が変わった大事な日」というアンの言葉を聞きマリラは、自分にとっても1年前のきょうは「人生が変わった日」であり、アンの存在のかけがえのなさを悟る。そんなことはせりふでもナレーションでも告げられない。ただマリラの沈黙によって語られるだけである。『赤毛のアン』にはほかにも傑作、名作と呼べる回がたくさんあるが、高畑演出で本当によかったと思えるこの回を選ぶ。

うる星やつら』#62.「どきどきサマーデート」(押井守

Urusei Yatsura/1982

うる星やつら』の劇場版第2作『ビューティフル・ドリーマー』を今回のベストで挙げる人はけっこう多いだろう。しかし、私にとって『うる星』の魅力はやっぱりラブコメだよなとおもう。スラップスティックな鬼ごっことハイテンションなせりふの応酬、そしてあたるとラムの甘酸っぱい恋愛模様。こうした要素がバランスよく盛り込まれ、なおかつキャラクターが生き生きと描かれているのがこのエピソードだ。あたるとラムのロマンスを真正面から描くエピソードはテレビシリーズでも何度か登場するけど、ちょっとシリアスすぎるんだよな。その点、「どきどきサマーデート」はあくまでコメディとしての面白さを優先していて好きだ。序盤で甲子園のテレビ中継をラムが居間で見ている夏らしい導入に始まり、相変わらずほかの女の子を電話で口説いているあたるのシーンへのスムーズなつなぎも見事。電話帳を取り合う追っかけっこも活劇性に満ちている。レストランでのラムの大食いシーンもいい。登場人物がなんかむしゃむしゃ食ってるシーンも『うる星』の魅力ですよね。

魔法使いサリー』♯1.「はじめましてあたし夢野サリーです」(葛西治)

Sally the Witch/1989

89年版の第2シリーズの第1話。一度は魔界に戻ったサリーが再び人間界に戻ってくるという第1作の続編(厳密にはパラレルワールド的な後日談)としてつくられている。友達がピンチに陥り、満を持してサリーが魔法をつかう場面で鳥肌が立つ。魔法を使うことで友達の中にある「夢野サリー」の記憶を消えてしまう。記憶をなくして初対面のように接する親友たちにサリーは「はじめまして」と気丈に自己紹介するのだった…。イントロダクション的な第1話のなかに魔法少女の寂しさをさりげなく忍ばせた理想の第1話。それにしても、第2シリーズはなぜソフト化されないのか。2年近く放送されたし、人気もあったと思うんだけどな。ザッツ東映アニメな最高のオープニングも含めて思い入れが深い。

おジャ魔女どれみドッカ〜ン! 』#40.「どれみと魔女をやめた魔女」(細田守

Ojamajo Doremi Dokka~n!/2002

そんな魔法少女の孤独をほとんど極限まで突き詰めすぎたのがこの話。言わずと知れた細田守演出です。見ていない人にはぜひ見てほしいので多くは語らないことにします。

ルパン三世 PART2』#99.「荒野に散ったコンバット・マグナム」(吉田しげつぐ)

Lupin the Third/1979

大和屋竺の脚本回。第2シリーズでは宮崎駿が演出した2作が突出して有名ですが、私は次元が好きなので本作と「バラとピストル」(同じく大和屋の脚本)、「国境は別れの顔」、「次元と帽子と拳銃と」がベスト4です。ほかには東宝チャンピオンまつりで上映された「ベネチア超特急」、高橋伴明脚本の「女王陛下のズッコケ警部」、ナンセンスコメディの名手浦沢義雄のデビュー作「カジノ島・逆転また逆転」も大好き。でもあえて1本選ぶならやはり本作でしょう。アバンタイトルのカーチェイスからすでにルパン的な活劇に満ちている。次元と宿敵ストーンの対決とルパン一味のお宝強奪作戦が同時並行で描かれ、終盤で見事に収束。「荒野に散ったコンバット・マグナム」ってそういう意味か…と笑ってしまう。次元とストーンの決闘から国境脱出までをスピーディーに描く手つきは秀逸の一語。

地獄先生ぬ〜べ〜』♯16.「鬼の手使用不能!!旧校舎の怪人」(貝澤幸男)

Hell Teacher Nūbē/1996

現在放送中のドラマ版はあまりにひどい出来だったため2話目で視聴をやめてしまったが、たった1年だけ放映されたこのアニメ版はいま見返しても1話1話よくできているとおもう。最近CSの再放送で20年ぶりくらいに見返したけど、どのエピソードも面白かった。本格的なホラー描写と健全なお色気表現、魅力的な脇役たち、本当に『ぬ〜べ〜』っていいアニメだったなあ…。第16話は強力な妖怪に取りつかれて戦闘不能になったぬ〜べ〜を助けるため、子供たちが奮闘するというイレギュラーな展開。数話前に登場した凶暴な妖怪の力を借りるという危険すぎる作戦も含めて、手に汗握る展開で当時ドキドキしながら見たことを覚えている。

妖怪人間ベム』#9.「すすり泣く老婆」(若林忠生)

Humanoid Monster Bem/1968
人生史上最大のトラウマアニメ。なぜか日曜日のお昼頃に再放送されていて、毎回怖すぎて「もう来週は絶対見ない」と誓うんだけどやっぱり見ちゃうという感じだった。大人になってDVDボックス買って見返したけどやはり怖かったですね。ほとんどのエピソードが面白いのですが、少年ながらにショックを受けたのがこの第9話。友達になった盲目の少年と母親を助けるために戦い抜いたベム、ベラ、ベロを待ち受けたのは「お前たちも仲間だったのか」という理不尽な誤解と差別であった。母親に手厳しく追い払われ、泣き出してしまうベロ。報われない正義というものがこの世にはある。それでも正しい行いをやめる理由にはならない。きびしくも尊い信念を一本のアニメに教えられたのだった。

魔法の天使クリィミーマミ』♯46.「私のすてきなピアニスト」(望月智充

Creamy Mami,the Magic Angel/1983

クリィミーマミ』は特に後半が傑作が多くて異色ホラー「マリアンの瞳」、本格的な怪獣映画「ジュラ紀怪獣オジラ!」、サスペンスタッチの「悲しみの超能力少年」、爆笑コメディ「立花さん女になる」、「恐怖のハクション!」など目白押しなのですが、まあ一般的な人気も高い本作に落ち着きます。ピアノを弾けなくなった青年と魔法の力だけで大人の女性になったマミ(ユウ)の淡く、かりそめのロマンス。魔法少女の設定を最大限に生かしたラブストーリーとはこういうものだと思う。私が綾瀬はるか主演の『ひみつのアッコちゃん』に求めていたすべてが30分弱のアニメには詰まっている。空港まで見送りにきながらも「もう嘘をつきたくない」からマミに変身することができず、結局声をかけられないままユウが走り去る。「LOVEさりげなく」のピアノバージョンが流れる場面の完成されたメロドラマ性に落涙する。

以上です。書くのに休み1日使ってしまいました。