Devil's Own

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『ボルト』


 ここ数年低迷が囁かれていたディズニーアニメ、会心の復活作。プロデューサーにジョン・ラセターを擁しただけあり、キャラクター造形、シナリオ構成などが綿密かつ丁寧に作られていて、いつもながら感心する。実際『ボルト』はほとんどピクサースタジオの新作映画かと見紛うばかりに、ピクサー的なモチーフが散りばめられている。自らの超能力を信じて疑わない主人公・ボルトのキャラクターは、誰がどう見てもバズ・ライトイヤーの引き写しであるし、家族に捨てられた悲しい過去を持つ猫のミトンズは『トイ・ストーリー2』に登場したカウガール人形ジェシーを彷彿とさせる。幸福ではあるが閉鎖的な環境に安住していた主人公が、偶発的に「外」へ飛び出してしまい、烈しいアイデンティティークライシスに遭遇しながらも、自分らしさを奪還し、少しだけアップリフトした状態で元の世界に帰っていく、というアウトラインもこれまでのピクサー作品で繰り返し描かれてきた黄金律である。『ボルト』の物語は、こうした黄金律を主軸としながら、『ブレーメンの音楽隊』と『ルドルフとイッパイアッテナ』などに因数分解することが出来る。ごくまっとうな「児童文学」であり、その意味で、どこか目新しさに欠ける、よくも悪くも優等生的な作品だともいえるだろう。
 ただし、だからこそこの映画には世界中の子ども達をウキウキさせずにはいられないプリミティブな煌めきが沢山詰まっている。中盤から物語は、ボルト、ミトンズ、ライノのいかにもちぐはぐなトリオ(実にピクサー的!)がアメリカを横断するというロードムービー的な展開をみせるが、この道中において、ボルトが少しずつ、「犬らしさ」を獲得していくプロセスは本作品の白眉ではないだろうか。たとえば、『となりのトトロ』を見ていると、駒にのったトトロに最初は躊躇っていたさつきがいよいよ飛びつく場面で、いつも涙がとまらなくなってしまうのだけれど、同じように、ボルトが列車の窓から顔を覗かせて、その経験したことのない快感に大興奮する場面で僕はおいおいと泣いてしまった。*1ボルトが信じて疑わなかった必殺の超能力スーパーボイスが、終盤重要な意味を持ってくるという伏線回収の妙にもにやりとさせられる。もう少し尺をとって、個々のキャラクターを描きこんで欲しかった気もするが、子ども映画としては96分がギリギリというところだろう。
 最後に蛇足だが、僕がこの映画に最もぐっときてしまったのは猫のミトンズである。現在皆さんがきゃっきゃと騒ぎ奉っている真木波・マリ・イラストリアスにも、僕はなんとも感じなかったが、ミトンズには完全にハートをキャッチされてしまった。気が強くてクレバーで皮肉屋で少しだけセンチメンタルな女の子、完全にストライクである。いつもならパンフレットを買うのだけれど今回は不覚にもミトンズのクリアファイル*2を買ってしまった。ミトンズはダイシックスの俺の嫁ランキングにおいて、長らく単独首位であったあくび娘を抑えて見事トップに躍り出たのであった。
 あと冒頭で『カーズ』のスピンオフ短編があったのもよかった。『カーズ2』とても楽しみ。

*1:実家で飼っているペコも車の窓から顔を出すのが好きだったことも思い出す。

*2:http://www.stellatuhan.com/asp/ItemFile/10001870.html