Bボーイじゃない私が好きだった日本語ラップ16曲プラス1
私が中高生だった2000年代前半は、日本語ラップがすごく流行っていました。日本語ラップというと「悪そうな奴はだいたい友達」というZEEBRAの有名なフレーズを連想する人も多いとおもいます。確かに学校内のイケてる連中はみんなだぼだぼの服を着て、日本語ラップを聞いてカラオケでもラップしてました。私はというとふだんからsyrup16gを聞いている鬱屈した高校生でしたが、実は日本語ラップもわりとよく聞いていたんですね。友達がラップをしていたというのも大きいですが、単純にかっこいいし新鮮に思えた。最近、なつかしくなって聞き返したりするので、その時聞いていた日本語ラップの楽曲をここにまとめておきたいとおもいます。もし日本語ラップに対してステレオタイプなヤンキーイメージを持って聞いていない人がいたら、もったいないのでぜひ聞いてみてください。
『Groovin'』(EAST END×YURI)
『DA.YO.NE』、『MAICCA』の人たちです。『DA.YO.NE』だって今聞いてもじゅうぶんかっこいいですが、あまりに急にヒットしすぎたこともあってか世間的には「一発屋」扱いされているのが悲しいところです。この曲は『DA.YO.NE』を含む4曲入りE.Pのオープニング。Soul2Soulみたいなスムースなグルーヴ感がきもちいいです。
『Stepper's Delight』(Rip Slyme)
『DA.YO.NE』がヒットしたのは私が小学生のころ。それから数年後、日本語ラップが急速にメジャー化しました。なかでも人気があったのがDragon Ash、Rip Slyme、Kick The Can Crewの3組です。Dragon Ashはあくまでもロックに軸足を置くミクスチャーバンドだったのに対し、Ripは4MCと1DJといういわゆる「普通の」ヒップホップグループ。本格的なマイクリレーやライミングなども私にとっては初めて聞くものだったので彼らの登場は衝撃的だったのを覚えています。Ryo-Zのラップがすごく巧いですね。
以下閉じます。
『マルシェ』(Kick The Can Crew)
たぶんこのころヒットした日本語ラップのなかでも最もメジャーな一曲。この曲で紅白にも出たので聞いたことがある人も多いでしょう。このグループの持ち味である矢継ぎ早なマイクリレーを存分に発揮。歌詞にある「語尾と語尾をつなぐ喜び」がストレートに伝わる楽曲です。Kick The Can Crewはインディーズアルバム『Young King』も繰り返し聞きました。おすすめ。
『Only Holy Story feat.Azumi(Wyolica)』(Steady&Co.)
Kick The Can Crewといえば山下達郎の名曲をフューチャーした『クリスマス・イヴRap』も有名ですが、まったく同じ年にリリースされたこの曲もクリスマスソングの傑作です。Steady&Co.はDragon Ashの降谷健志とDJ BOTS、Rip SlymeのILMARI、スケボーキングのSHIGEOのユニット。ヒップホップに傾倒していた時期の降谷の仕事で、もっとも成功したのは実はSteady&Co.だと思っている。たった一枚しか作られなかったアルバム『CHAMBERS』は、メロウかつアーバンな雰囲気に貫かれた傑作です。当時降谷は22歳。いろいろとディスられもしましたが、その才能は疑いようがないとおもいます。
『TOKIO LV』(スケボーキング)
SHIGEOが在籍するミクスチャーバンド、スケボーキング(SBK)の楽曲。小田和正の『ラブストーリーは突然に』をサンプリングしています。このころはヒップホップグループだけではなくてミクスチャーバンドも多く台頭してきました。洋楽でもリンプ・ビズキットやリンキン・パークが人気でしたね。ほとんどが足し算式のしょうもないバンドでしたが、SBKはそのなかでも一線を画していたとおもう。この曲が収録されている『KILLING FIELD』は今聴いても洗練されたアレンジが光る良盤です。その後、SBKの音楽性はヒップホップから遠のき、メンバーすべてがDJを名乗るダンスミュージックグループに変化しましたが、商業的には苦戦したようです。
『a Day in Our Life』(嵐)
日本語ラップのメジャー化を決定づけた一曲。嵐はそれまでの楽曲の中にもラップを取り入れてはいたが、ラップをよく知らない大人が見よう見まねで作った感じでとにかくダサかった。この楽曲は先に紹介したスケボーキングのメンバーが全面的にプロデュース。同じ事務所の先輩である少年隊の楽曲をサンプリングするというきわめてヒップホップ的な方法論で作られた傑作です。
『エクスタシー温泉』(アルファ&DJ TASAKA)
2002年はさながら日本語ラップバブルといったところで、アルファのような変てこりんなグループも堂々とメジャーデビューを飾るようになります。DJ TASAKAのテクノグルーヴと二人のMCの意味わからないけどきもちいいライミングがクセになり、何回も聞きました。
しかし、日本語ラップバブルの状況はもちろん長続きしませんでした。日本ヒップホップ界の重鎮、というより日本語ラップの成立じたいに関わった伝説のグループ、キングギドラがDragon Ash、Rip Slyme、Kick The Can Crewら「セルアウト組」をディスった『公開処刑』をリリース。名指しで批判された降谷はかなりのショックを受け、目に見えて創作ペースがダウンしてしまった。確かに降谷のラップスタイルは「パクリ」と言われても仕方ないほど露骨にZEEBRAの影響を受けていた。さらにリスナーの耳も肥えてきて、MCとしての降谷のラップスキルが決して高いものではないこともわかってきた。じっさい私のまわりにも中学のころはあんなに聞いていたDragon Ashを「公開処刑」以降は急にハイプ呼ばわりする人たちも出てきました。私はこのころから「なんかヒップホップってめんどくさいなあ」とおもい始めて、急速に同時代の日本語ラップへの興味を失ってしまいました。
『未確認飛行物体』(キングギドラ)
とはいえ、お勉強好きの私ですから、キングギドラをはじめとする黎明期のヒップホップをさかのぼって聞くようにもなった。そういう意味でも「セルアウト組」の功績は大きいとおもいますよ。キングギドラのファーストアルバム『空からの力』はトラックがシンプルなぶん、研ぎ澄まされたラップが前面に出ていています。捨て曲なしの名盤ですが「未確認飛行物体」はその冒頭を飾る曲。いまより若々しいZEEBRAとK DUB SHINEのラップには狼煙を上げるようなギラギラ感があります。
『サマージャム'95』(スチャダラパー)
しかし、もともと根暗文系男子の私ですから結局、ハードコア路線には疲れてしまいスチャダラに落ち着いたという。この楽曲も収録された『5th wheel 2 the coach』はキングギドラの『空からの力』と同じ95年リリースですが、とても対照的な内容になっています。『公開処刑』でPTSDに陥った私にとってはリハビリのようなアルバムでした。どの曲か忘れましたが「笑えない風刺よりテンパった末のダジャレのほうがまし」というリリックにすごく救われたのを覚えています。
『蝶と蜂』(Soul Scream)
いろいろな日本語ラップを聞いていて気づいたのは、ヒップホップは一般的に思われているほどマッチョ一辺倒な音楽ではなかったという点です。このジャンルの不良性に苦手意識を感じている人に一番おすすめなのがSoul Screamです。2MCの流麗なフローや文学的な言葉選びのセンスは唯一無二ですが、何より魅力なのはDJ CELORYが作る優雅で美しいトラックですね。この楽曲が収められているのはセカンドアルバム『The positive gravity』ですが、4枚目『FUTURE IS NOW』もおすすめです。押し付けがましくない程度に気持ちをアップリフトしてくれます。
『肉体関係 part 2 逆featuring クレイジーケンバンド』(Rhymester)
今となっては映画ファンには一番有名なグループと思われるライムスターも日本語ラップのメジャー化が進んだ2001年にメジャーデビューを果たしました。すでに10年選手のベテランだったので音楽雑誌では「満をじして」という感じの紹介のされ方だった記憶があります。他ジャンルとのクロスオーバーに積極的で、なおかつ毎回ちゃんと成功もさせている。元ネタの引っ張り方なども常に大衆音楽を意識しつつ、基本となるヒップホップマナーを外さないクレバーで計算された音楽です。メジャーアルバム第1弾の『ウワサの真相』に続いてリリースされた『ウワサの伴奏』は、『真相』の楽曲を中心に1曲ごとにゲストミュージシャンを迎え、ライムスターの柔軟性が味わえるアルバムです。SUPER BUTTER DOGとコラボした『This Y'all That Y'all 』もオススメです。
『DO THE HANDSOME feat.KASHI DA HANDSOME』(キエるマキュウ)
70年代ごろのモダンソウルやレアグルーヴを元ネタとした洒落たトラックに乗せるどぎつい下ネタリリックが特徴です。聴いてるといつも笑っちゃうけど、野蛮な魅力があります。個人的にはファーストアルバム『TRICK ART』も狂っていて好きですが、セカンド以降は聴きやすくなった分、リリックとのギャップが際立って面白いです。実は昨年、約9年ぶりの新譜をリリースしていてちょっと聞いてみましたがやっぱりひどい歌詞でうれしくなりました。買おう。7月にMCのMAKI THE MAGICが急逝。ご冥福をお祈りします。
『Warm or Cold』(Shakkazombie)
MCにはそこまで惹かれませんでしたが、トラックがダブっぽくてかっこいい。いわゆる「ドープな」と表現されそうな中毒性の高い曲ばかりのセカンドアルバム『JOURNEY OF FORESIGHT』は夜中に眠れないときに聞きました。DJがくるりの『ワンダーフォーゲル』のリミックスを手がけていましたが、全然ちがう曲になっていてびっくりした記憶があります。
『未来は俺らの手の中』(THA BLUE HERB)
高校を卒業するとほとんど日本語ラップを聞かなくなった私が、継続して聴いたのはブルーハーブです。とくに浪人時代は精神的にバランスを崩しそうになったときに、BOSSの言葉に助けてもらった。この曲はもともとブルーハーツのトリビュートのために作ったものらしいですが、あまりに原曲とかけ離れていたために収録を見送られ、シングルとしてリリースされました。結局トリビュートに入っていたどの楽曲よりもパンク精神を体現していたという皮肉。名曲です。
『その先の向こう』(TWIGY)
ブルーハーブと並んで、卒業後も聴き続けていたのがTWIGYです。黎明期から活動している仙人のような人で、歌詞もほかとは一線を画している感じがしますね。大学でサークルに入って初めに意気投合した男がTWIGYのファンだった。彼は今どうしているんだろう。
おしまいにおそらく私が生まれて初めて触れた日本語ラップ楽曲、アニメ『おばけのホーリー』のオープニングも貼っておきます。