Devil's Own

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ジャン・ルノワール「牝犬」


射殺!だだだだ!
冗談はさておきジャン・ルノワール初期の傑作「牝犬」を見に行きました。授業で見せてもらったDVDと微妙に和訳が異なっていたような気がしなくもない。ひとりの女性を巡り、破滅していく二人の男性の物語だが、ヒロインの「牝犬」=ルルは所謂ファム・ファタールではなく、あくまでも恋人に大して献身的に振舞う薄幸な女の子である。とはいえ全身に柔らかな光をまとって、男を誘惑し狂わせてしまうルルはいかにもルノワール的な美女だ。今日的な女の子が憧憬しているスタイルでは決してない、むしろちょいデブ、なのにとても官能的だ。というわけで自分が踊らされていることに気づかず、ばちばちと化粧を盛りエクササイズにいそしむ世の中の女子の努力の大半は徒労でしかないということが証明されている。
 ルグランによる殺人からデデが訪問し、大家による遺体発見に至る一連のシークエンスがやっぱり素晴らしい。終盤の裁判のシーンのゆるさが堪らなくいい。昨年周防正行がガチガチの再現ビデオを作ったのとは対象的だ。
 ミシェル・シモン演じるルグランが最後にはホームレスとなってしまい、さり気なく「素晴らしき放浪者」へのイントロダクションとなっているところが面白い。これを見た後、「素晴らしき放浪者」を見るとミシェル・シモンが真っ黒な犬とキスしまくっていて、まだ牝犬を愛しているのだなとかくだらないことを考えてしまう。直後、「食事の邪魔だ」と言って邪険に追い払っているので全く関係ないと思うが。
 扉や窓を利用した奥行きのある構図が印象的。ルグランが愛人の浮気現場に遭遇するカットなんかは、トリュフォーの「逃げ去る恋」でも再現されている。ラングのリメイク「スカーレット・ストリート」はより女性の悪女的雰囲気を強調していた気がするが、もう一度見てみたいなぁ。